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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (10)
 少年が腕を振り回す。同時に風が吹き、「おきあがりこぼし」のターゲットを揺らす。
 肩で息をする少年に、リシュネは背後から助言する。
「腕を振ることそのものが疲労に継ながるんじゃない? 腕を伸ばしたままにしてみたら」
 少年は無言でうなずき、右腕を伸ばし、かけ声と共に風を飛ばす。
「行け!」
 だがその風に勢いはなく、ターゲットをわずかに揺らしただけだった。
「威力は落ちたけど、命中精度は悪くないし……このまま練習した方がいい」
「だね、本来は体の動作とは無関係に使えるはずだし」
 少年は膝に手を付き息を整える。頭が下にあるからか、リシュネから見ても少し幼く見える。
 彼は私に頼ろうとしている。そして私は、彼を頼れない。
 泉の洗礼を受けた者が高い能力を持っているとしても、単純な固さ、防御能力ではAPの方が上だ。ならば、私は少年の、舞の、組織の盾とならなければならない。
「彼の調子どう?」
 舞がリシュネに語りかける。現状では、舞が一番頼れる、頼りたい。だが、舞の後ろに立つ二人のお荷物が、彼女の枷となるだろう。雅樹がいればと思うが、今いない者をあてにしても意味がない。
「動きに無駄があるだけ。問題ない」
 そう、問題はない。
 私が想像できうる能力を実現さえ可能なら、APを遥かに超える戦力となるはずだ。戦力としては。
 時々、少年がリシュネの方を振り返る。その視線は、リシュネの顔へではなく、薄いボディースーツで覆われた肉体へ向けられていた。
 ……私が、気づかないとでも思っているの?
 少年の体と心の変化は、リシュネを呆れさせると同時に、寂しくもさせた。リシュネはAPであり、少年は人間となった。能力を持つ者同士、などという言葉は気休めにしかならない。
 舞と俊雄を見てもそう思う。この二人は、本当にこの状況を理解しているの? 談笑する二人にリシュネはため息をつく。
「どうしたの?」
「……おめでたいなぁって」
「そんな皮肉言わないでよ。それに……」
 舞は周りを見回す。訓練場に、リシュネ、少年、俊雄、フィオ、そして舞。
「こんな風にみんな一緒っていうのも悪くないかなって」
 そう言って微笑む舞。だが、対照的にリシュネの表情は曇っていき、右手で顔面を覆った。
「……ここに、全員、いる……!!」
 その事実に今頃気づいた自分自身をリシュネは激怒した。
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