どこかで目覚ましが鳴っている。
手を伸ばそうとして、その腕が何かにつかえる。
薄く目を開けると、最近やっと見慣れてきた光景が目に入る。やや薄汚れた壁、物で溢れた室内、背中の温もり。
「…………」
寝ぼけ眼でうめは、体に絡み付いた紫恋の腕を紐解こうとして、その目覚ましが隣の家のものだということを思い出し、もう少しの間、紫恋の温もりを感じることにする。
「ん〜〜〜…………こうしぃ」
むっ。
うめは後頭部で紫恋の顔面を叩く。
「いたっ! な、なに???」
「起きなって、ごはん作るから!」
「???」
何がなにやらの状態で、紫恋はうめを追ってベッドから出る。
紫恋をユニットバスに追いやってから、うめは料理を作り始める。かろうじてキッチンがあるという狭い1DKの中で、不相応な数の食器、調理器、調味料、食材に囲まれ、うめはてきぱきと朝食を作っていく。
紫恋が全裸でバスから出てきて、すぐ歓声を上げる。テーブルには何皿もの料理が並んでいた。
「うわ、朝からすごいね」
「日持ちしないものは使っとかないと。食べきれなかったらお弁当にしてね。準備もできてる?」
「大丈夫だって」
下着だけ穿いて朝ごはんをつまみつつ、紫恋は玄関を指さす。大きなトランクが2つ並び、バリケードとなっていた。
「すぐ出られるようにしてあるから。遅れないよーにね」
「大丈夫だって。私は昔の私じゃないんだから」
ふふん、とカジュアルスーツに身を包んで胸を張る。
「そーかなー、最近味付け雑じゃない?」
「だから使っとかなきゃいけないんだって」
「それを雑と言わずしてなんという」
「うっさいなー、じゃ行ってくる」
「はいはい」
紫恋は立ち上がり、玄関へと見送りに出る。
「6時には終わるから。行ってきまーす!」
勢いよく駆けて、さらに大きく飛び上がってビルを飛び越えて行くのを上半身裸で見送ってから、紫恋は扉を閉めて、バッグから本を出し、それを読みながら朝ごはんをつまむ。口にほおばりながら色付きペンでアンダーラインを引く姿は、少なくともその瞳は真剣だった。
本の名は「借威魔法クラス必勝対策本 回復系レベル2 過去問付き」。
それは、3年後、祝いの日の前日の光景だった。
手を伸ばそうとして、その腕が何かにつかえる。
薄く目を開けると、最近やっと見慣れてきた光景が目に入る。やや薄汚れた壁、物で溢れた室内、背中の温もり。
「…………」
寝ぼけ眼でうめは、体に絡み付いた紫恋の腕を紐解こうとして、その目覚ましが隣の家のものだということを思い出し、もう少しの間、紫恋の温もりを感じることにする。
「ん〜〜〜…………こうしぃ」
むっ。
うめは後頭部で紫恋の顔面を叩く。
「いたっ! な、なに???」
「起きなって、ごはん作るから!」
「???」
何がなにやらの状態で、紫恋はうめを追ってベッドから出る。
紫恋をユニットバスに追いやってから、うめは料理を作り始める。かろうじてキッチンがあるという狭い1DKの中で、不相応な数の食器、調理器、調味料、食材に囲まれ、うめはてきぱきと朝食を作っていく。
紫恋が全裸でバスから出てきて、すぐ歓声を上げる。テーブルには何皿もの料理が並んでいた。
「うわ、朝からすごいね」
「日持ちしないものは使っとかないと。食べきれなかったらお弁当にしてね。準備もできてる?」
「大丈夫だって」
下着だけ穿いて朝ごはんをつまみつつ、紫恋は玄関を指さす。大きなトランクが2つ並び、バリケードとなっていた。
「すぐ出られるようにしてあるから。遅れないよーにね」
「大丈夫だって。私は昔の私じゃないんだから」
ふふん、とカジュアルスーツに身を包んで胸を張る。
「そーかなー、最近味付け雑じゃない?」
「だから使っとかなきゃいけないんだって」
「それを雑と言わずしてなんという」
「うっさいなー、じゃ行ってくる」
「はいはい」
紫恋は立ち上がり、玄関へと見送りに出る。
「6時には終わるから。行ってきまーす!」
勢いよく駆けて、さらに大きく飛び上がってビルを飛び越えて行くのを上半身裸で見送ってから、紫恋は扉を閉めて、バッグから本を出し、それを読みながら朝ごはんをつまむ。口にほおばりながら色付きペンでアンダーラインを引く姿は、少なくともその瞳は真剣だった。
本の名は「借威魔法クラス必勝対策本 回復系レベル2 過去問付き」。
それは、3年後、祝いの日の前日の光景だった。