4. 主線
 
2コマ目  
■主線描き
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 セリフとフキダシが描けたら、今度は一番重要な作業、主線(おもせん)を描く作業です。
 主線はキャラクターの輪郭線です。そしてマンガの命です。すべてと言っても過言ではありません。作者の腕の見せ所です。
 が、かといって主線を描くのに何時間も掛けてはダメです。4コマはある意味絵を犠牲にしたマンガです。コマは小さく、大きなコマは取りづらく、会話が中心のマンガです。どんなに凝った気合いの入れた作画をしても、4コマではあまり意味がないのです。
 4コマを描く、と割り切った以上、ある程度手を抜き、そして力を入れるところは力を入れて描く、と覚悟しましょう。
 
ツールプリセット  
■ブラシを決めよう
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 主線を描く前に、まず自分の絵柄を決めるものとしてブラシのスタイルを決めましょう。
 線が太いか細いか、「ヌキ」があるかないか、色が黒かそれ以外か、といった特徴は、絵の印象を大きく変えます。マンガのスタイルを決めると言ってもいいでしょう。抑揚の少ない線は坦々としてドライな印象を与え、抑揚の多い線はリアルで現実的な印象を与えます。これらは作風にあったものにしましょう。
 
 タブレットによる直描きの場合には、 Photoshop のブラシの設定を細かく変えて、試行錯誤をするしかないと思います。特にタブレットの筆圧を使った「イリ」や「ヌキ」(線の端が細くなるように描くこと)を表現するのは難しいと思います。筆圧調整やブラシの濃淡設定を細かく調節し、また、良さそうなものができたらツールプリセットに登録してあとで呼び出せるようにしましょう。
 ほとはーの場合、そういったことを放棄しています。ほとはーは抑揚のない、ロットリングやミリペンのような筆圧とは関係のないブラシを使っています。
 ただし、太さは数種類用意してあります。輪郭線は太くディテールは細く、キャラが視点に近い場合には太く遠い時は細く、という方針で変えることで、絵柄の印象をダイナミックなものにしようと試みています。成功してるかは不明ですが……。
 
半透明の下描きとフキダシ  
■描こう
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 あとはもう描くだけです。
 まずコンテの下描きとフキダシのレイヤーの濃度を30%くらいにしましょう。特にフキダシは濃度を下げないと後ろが見られないので必ず下げましょう。
 あとは、元々用意してある「主線」レイヤーにただひたすら描くだけです。ある意味、純粋に「マンガのテクニック」が必要な場面です。漫画家としての腕を思う存分見せてください。
 
 それと、この段階で黒ベタを入れてしまいます。黒ベタは着色と方法が同じなので、これについては次回説明します。
 
3コマ目と4コマ目  
■デジタルだし
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 Photoshop で描いているのなら、大変な主線描きも、ありとあらゆるサポートを受けられます。
 
レイヤー:キャラが被って描きにくい、という場合にはレイヤーを作って別々に描きましょう。ただ、これは慣れてくると必要なくなるものですし、これをすると時間が掛かるので、初めのうち、もしくは重要なので丁寧に描きたい場面だけにしましょう。
 ちなみに今回は4コマ目の「フキダシ」を別レイヤーに描いた後、結合しました。実は「着色」の際に主線レイヤーはひとつである必要があるため、結合は必須だったりします……。
パス:ペンツールを使ったり直線ツールを使ったりして引いたパスはきれいな曲線・直線を描くことができます。これもやるとえらい時間が掛かりますが、コマいっぱいのきれいな曲線や、フリーハンドじゃ描けないきれいな直線は迷わずパスで描きましょう。ちなみに4コマ目の「フキダシ」もパスで描きました。
ズーム:ドット単位での修正もできるのですから、たとえば「線と線を継なげる」というのもズームでこまかーく修正すれば簡単にできます。ただし、絵の拡大縮小はやめましょう。線の太さが変わると絵の雰囲気が大きく変わってしまいます。
コピペ:コピペは手を抜くためだけのものではありません。「前のコマと同じ」コピペは、演出として「前と状態が同じ」ことを意味します。今回は4コマ目を元に3コマ目をコピペしました。こうすることで3コマ目と4コマ目が「同じ状態」ということを表します。このように効果的に使えば読者の心証が悪くなることはないので多用しましょう。
 
 フルデジタルということで、タブレット直描きに慣れないことも多いでしょうが、こういったメリットを存分に使うことでフォローしていきましょう。結果としていい絵ができればいいんですし、読者はそこしか評価しませんから。
 
主線完成  
■時間は掛けましょう
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 主線は一番描くのに気を使う工程です。相対的にですが、時間を掛けた方がいいでしょう。特に、眠くない、体調がよく気分がいい時に描くのが一番だと思います(プロになったり締め切りが近いとそんなこと言ってられませんが……)。
 そうしてできたのがこれです。
 
サンプルC(主線まで) 2.61MByte
 
 今回の絵は30分ほどで描けました。今、時間を掛けると言いましたが、掛ける必要がなければ掛けない方がいいでしょう。この後の着色や背景は結構時間が掛かるからです。
 さぁ、折り返し地点を通過しました。後半はちょっと退屈だったり面倒だったりします。がんばっていきましょう。
 
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[COLUMN] 手よりも目
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 主線は、マンガの技術がもろに出ます。
 たとえば「右向きは描きやすいけど左向きや正面は描きづらい」といったありがちな問題もあると思います。が、「2.コンテ」で説明したように、セリフや画面構成の制約には揺るがないものがあります。「描けない構図・アングルがある」ということが原因でそれらが犠牲になってはいけません。
 僕も技術的にはまだまだのまだまだですが、それでも4コマで迷わず描けるレベルにはなりました。そのうえで、重要なのはだと思います。
 
・目は立体物を見るためにある
 目は平面を捉えるよりも、立体物を把握することを目的としています。
 目、そしてそれをコントロールする脳は、対象物を立体的に捉え、形や距離を把握します。平面的にとらえるわけではありません。
 僕は特にそうだったのですが、絵を描くと、視点からは見えないものまで描いてしまう傾向がありました。立体的に把握してしまっため、本来見えないものを観てしまうわけです。
 こういった傾向を克服する手段のひとつは、写真です。デジカメなどで対象物を写して、それを元に絵を描いてみましょう。そして今度は、まるで「写真を撮るかのように」頭の中でイメージを固定してみましょう。そのイメージには、見えないはずの裏面は写っていません。このイメージを、絵に描くようにしてみましょう。
 
・目をカメラに見立てる
 話が続きますが、自分の視点を「カメラ」と考えて絵を描いてみましょう。
 目は、ズームが自然に効き、ありとあらゆる範囲を視界として捉えます。そのため、目で観た物をイメージして描くと、視点やズームがぼやけます。つまり、絵が「どの点で」「どの方向で」「どの倍率で」描くのかを固定しづらいです。
 そこで、カメラをイメージしましょう。カメラは、ズームは手動ですし、視線も一方向です。取った映像は四角い枠に収まります。その枠を想像して絵を描いてみましょう。
 これも、実際に写真を撮ってみるのが上達の道かもしれません。たとえば、「物に近寄って写す」のと「遠くからズームで迫って写す」のとでは全く異なりますが、それを写真として比較すると違いが良くわかる思います。マンガは平面の絵ですから、写真を参考にすることで「絵作り」がしやすくなると思います。
 
・目は左右で違う
 気付きにくいことですが、左右の目のスペックは異なります
 左右の目で視力が異なったり、視点がずれていたりすることで、見え方は変わります。これらの差は脳内で差異が消されるため、立体物を観る場合には問題ありません。ですが、絵のような平面物を視る際にはこの影響が出てきます。正面の顔を描いても、右目と左目で大きさが違ったりします。
 また、目には腕と同じように「利き目」があります。物を視る時には利き目を基本として見るため、利き目に近い絵の方がよく見えることになります。
 こういった影響は基本的にキャンセルできませんが、自覚することである程度抵抗できます。
 自覚するための方法はいくつかあります。まず描いた絵を左右反転させ、元の絵と重ねてみること。同じ大きさと思って描いたのに左右のバランスが異なる場合には、片方がもう片方よりも大きく見えていたりする可能性があります。
 また、寸法を正確に測って左右同じ大きさの目を描いてみるのもいいでしょう。それでどちらかの目の方が大きく感じる、ということもあります。
 それと、紙に対しては必ず正面から向きましょう。斜めから見るように描いている場合、「見やすい方向」から視ている可能性があります。絵は正面から見るものですから、描く時にも正面から見ましょう。
 
・よく見すぎない
 絵を描いていると、無性になんか変と思えることがあります。が、それは気の迷いです。
 絵をよく見すぎると、構成物が変に見えることがあります。たとえば「人間の鼻って変だなぁ」とか。逆に「マンガの鼻って変だなぁ」と思うこともあります。
 人間は、物を見る時に「そのもの」を見るわけではなく、記号的に視ます。顔であればその顔の特徴となるポイントを見て、そのキャラが誰なのかを判断します。
 ところが、自分で描いた絵をじーっと見ると、そういった「記号的見方」ができなくなり、とたんに絵が変になります。こうなるとまずいので、気を抜きましょう。
 また、この「見るポイント」は重要です。読者は、マンガを見る時に「そのすべて」を見るわけではなく、ポイントとなる箇所を見ます。絵を描く際には、その「ポイント」を押さえるようにしましょう。
 と言っても、その「ポイント」は人それぞれなので一概には言えません。まずは、「自分のポイント」を把握しましょう。自分は何をポイントにしているのか……それが判れば、自ずと自分の描きたい絵が見つかるでしょう。
 
 絵を描く上での、テクニックとは別の視点で解説してみました。これがわかったからといってさくっと絵がうまくなるわけではありませんが、こういうことに気付いているのと気付いてないのとでは大きいと思うので、頭の隅にとどめつつ絵を練習してみてください。
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