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風雅、舞い - 序 (1)
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 春。
 大和高校の校門、桜舞い散る中、まだ部活を決めかねている一年生が新しくできた友人達と下校していく。かと思えば、桜の木の下でストレッチをするジャージを着た集団もいる。授業が終わった直後の、一番活気づく時間帯。
「俺達にも、こんな時期があったんだよなぁ」
「当たり前じゃないか」
 右足にギプスをはめ、松葉杖をつく青年、俊雄が、俊雄よりだいぶ背の低い少年、信吾と話している。同じ制服を着ていても、これだけ背の高さが違えばまた違った印象を受ける。穏和そうな俊雄と、せっかちそうな信吾の表情も、また対照的だった。
「まあ、こんな春の日は物思いにふける、だから筆も進むってもんでしょ」
 松葉杖の青年と同じくらいの背の高さの大人びた体格と、そばかすと三つ編みの子供っぽい面影が混ぜ合わさった少女、恭子がそうフォローする。三人は普通のバッグの他に、別のバッグと画板を持っていた。
「それにしても遅いなぁ」
「まだ五分しか経ってないって」
「舞は結構そそっかしいところあるからねぇ。あ、来たみたい」
 わらわらと群がる新一年生を縫うように走る自転車。急ブレーキをかけて三人の目の前に土煙が舞い上がる。
「ごめん、だってみんな無茶苦茶な停め方してるんだもん」
 慣性が結白舞の長い後ろ髪を大きくなびかせる。高く透き通った声が、三人に突き刺さった。恭子より少し低いぐらいの背の高さだが、はね上がった前髪がやや勝ち気そうな面を感じさせる。
「いいわけはいいですよ」
「うん、そんなに待ってないし」
「さ、行こうよ」
 そう言うと、舞が乗るママチャリにバッグを放り込んで、三人は歩いていく。舞はそれに併せて自転車をゆっくりと走らせ、下校する他の生徒達とは別の方向へと進む。
「重くない?」
「いっつも訊くと社交辞令みたいだよ」
「そか」
 松葉杖で歩く俊雄に合わせてだから、自転車はのろのろと進む。それが、単純に大変そうに見える。
「大変なのは大変なんだけどね」
「でも自転車で来てるのは舞だけなんだからね」
「はいはい、みなさんはバスや電車で片道一時間の道のりをって言うんでしょー」
 そんな会話をしているうちに、四人はある場所に着く。見上げれば首が疲れるほど高く茂った木々が並ぶ、この辺りでは最も大きい公園だった。
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