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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (18)
 今にも自分を押しつぶそうとしている納屋を水槍が貫き、砕く。巨大な建造物は瞬時に瓦礫へと変わり、その瓦礫の下に少女の影が写ったと思った瞬間、それらの瓦礫も四方に飛散していた。
 リシュネは雅樹のすぐ脇に降り、雅樹を見たあと、洋一を見た。洋一は笑顔でうなずき、親指を立てた。リシュネも笑顔でうなずいた。足音が近づき、舞が雅樹の顔をのぞき込む。目の端がかすかにきらめいていると雅樹は感じた。
「あいつは?」
「行っちゃったよ。現れるのもいきなりなら逃げるのもいきなり。ついでにあっちの方ももうすぐ終わりそう」
 僅かに顔を向けたとき、巨大な黒い物体が遠くで消えるのを見た。僅かに遅れて、震動が来る。
「ったく、向こうでの戦いがもちっとおしとやかだったらこんな傷負わずに済んだのにな」
「ごめん」
 リシュネが素直に謝ったことに舞も雅樹も少なからず驚いた。
「い、いや、気にしなくていいよ」
「ねぇ雅樹、本当に大丈夫なの? このまま死んじゃったりしない?」
「大丈夫、だろう。んでも、今までで五本の指に入るくらいひどい傷だな。こりゃ回復まで時間がかかるわ」
「病院に入った方がいいんじゃない?」
「だな、最新医療設備ってヤツを味わうのも悪くないかもな」
 舞は冗談で言ったつもりだが、雅樹の目はその気になっていた。自分から病院に行きたいなんて言う人がいるとは思っても見なかった。
「実験体としてCIAが連れてっちゃったり」
「俺は宇宙人かよ」
 そんな会話をリシュネは聞いて、このふたりの関係はどのようなものなのだろうと考えていた。なぜこのふたりはこれほど仲がいいのか、恋とか愛とかそういうものなのだろうか、でも……。
 彼はこのことについての答をすでに持っているだろうか。洋一はこの問に答えてくれるだろうか。自分の中の琴線すれすれの感覚が不快感と快感を造り出していた。
「病院ならうちで紹介しようか」
「じゃ、頼んでみるか。できるだけきれいな所を頼む」
 雅樹はそう言うと、よろよろと立ち上がった。
「え、左手……」
「体中の筋肉を使っちまった。それに、内蔵のいくつかはあんままともに機能してないんで、気分悪ぃわ」
 左手を握ったり開いたりしている姿を見て、実際少しやせたと舞は感じた。そこに、少年が戻ってくる。
「あれ、あそこに置いておいていいのか?」
「いいんだ。どんなことをして政府が隠し通す。なら仕事をさせとけばいいさ」
「あなた達が隠してるんじゃないの?」
「言ってなかったが、君達は我々の側に着いた時点で、日本国政府を敵に回したということになるんだからね」
「相手にとって不足はないな」
 その雅樹の言葉は強がりには聞こえなかったが、舞がその言葉を言えば、自分でそれが強がりになると知っていたから、言わなかった。
「……ん、大丈夫だって」
 雅樹が穂香に心配掛けないよう声を掛けて、それを見て舞は肩を貸そうとする。
「服汚れるぞ」
「初めからそのつもりで来てたから、このくらい構わないから……」
 雅樹の体は大きく、あまり肩を貸すという形にはならなかった。ふっと負担が軽くなり、見れば反対側の肩をリシュネが担いでいた。
「仲よしこよしだねぇ」
「仲がいいことを馬鹿にするヤツは、あとで泣きを見るぞ?」
 その忠告は冗談で言ってるのではないと、少年は感じた。
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