KAB-studio > 風雅、舞い > 第七章 告白 (7)
風雅、舞い - 第七章 告白 (7)
「確かに、その手の情報は見つからないね」
 舞の実家、碧き泉のある家の居間で、少年はリシュネと一緒に古文書を読んでいた。
「碧き泉とか、他の泉でも」
「うん、ないね。内容は大きく分けて3通り。技術解説、この泉の歴史、そして泉そのものに対する研究」
 少年はぱーっとページをめくっていく。それだけで「読んだ」ことになっていた。
「かなり閉じた話ね」
 一緒にいる恭子が口を挟む。
「閉じざるを得なかったんだ。ここには僕らみたいな異能の人間がいたんだから、麓の村からも疎まれていたし、なにより」
 少年は本を閉じる。
「少なくとも、ここ千年の間に21回は攻められているんだ」
「攻められてる?」
「戦争……ってこと?」
 少年はうなずいた。
「理由は様々だけど、それでここに籠城するしかなかったのは確かだね。だから、他の泉があるなんて思わなかったし、自分達の戦闘能力を上げることに夢中になっていたんだ」
 少年は次の本に手を掛ける。
「その結果、最近の5回は、いずれもこの碧き泉の圧勝になっている。そして」
 その手が止まる。そのまま、見上げる。4人の視線の先に、美咲がいた。
 美咲の目は、言うな、と威圧していた。懇願していたのかもしれない。
「何度か、この泉の方から攻め入っている」
 美咲は唇を噛みしめた。
「……別に、非難しているわけじゃないんだ。むしろ」
 少年は目をそらして、立ち上がった。
「泉の能力を持つように、僕らも能力を持つ」
 リシュネは目を見開いて少年を見上げた。
「私達……APのこと?」
「僕の知る限り、泉の能力を持つ者は少ない、そうですね?」
 少年は美咲の方を向いた。その瞳は、真摯だった。
「ええ。私も奨も、泉に入って能力を受け継ごうとしてみた、けど不可能だった。舞は……特別なのよ」
「そして、APには特別な人間でなくてもなることができる。僕や、リシュネみたいに。そして、きっとAPはどんどん増えていく」
「増え……る?」
「天地生物科学工業からファインダウト社を興して、LWからAPにシフトした経緯を見ても、きっと左さんは、APを増やすことに注力しているんだ」
「な……」
 美咲は「なぜ」という言葉を飲み込んだ。
 なぜ、あなたたちのような存在をこれ以上増やそうとするの。
 だが、その事実に最も戸惑っていたのは、少年とリシュネだった。
「左さんは、何をしようというのだろう」
 その少年の問いかけに、リシュネはうつむいて口を閉じたままだった。
 検索