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風雅、舞い - 第七章 告白 (9)
 歪んだ形で生え伸びる木々。
 鬱蒼と茂る草。
 岩がごろついている起伏の激しい道。
 沼かと思えるほどぬかるんだ地面。
 月さえも見えない、ジャングルのような森の中を、ふたりは駆けていく。
 別に、誰かに追われているわけではない。ただ、これがふたりのペースだった。雅樹は右手の白い光で地面を照らし、舞は水蒸気の雰囲気を感じ取っていた。そしてそれだけで十分だった。
 が。
「っと」
 雅樹が止まる。舞が肩で息をしていた。
「ごめん」
「じゃ、ここで休憩だな」
 無人駅を出てからかれこれ5時間。電車では寝て、夜中に走る。その予定では朝方には着くという話だったが。
「これ、じゃ、はぁ、遅れちゃうね」
「別に遅れたってかまやしねぇさ。食事並べて待ってるわけでもなし」
「はは、そうだね」
 舞は苦しそうに笑って、岩に座った。
 呼吸が落ち着いてきた頃。
「あ、別に遅れるの気にしてないから。それに……」
 舞は、目を伏せた。
「あんたの体力、ちょっと普通じゃない」
「ああ」
「不死と関係あるの?」
「……」
 舞は空を見上げた。生い茂る葉々が、星を隠している。それでも、ずっと見続ければ、いくつかは見えるような気がしていた。だから、ずっと見上げている。
「電車で……寝てなかったでしょ」
「疲れないわけじゃないんだ」
 雅樹も岩に腰を下ろす。
「疲れを感じたり、痛みを感じたり、眠気を感じたり……そういう、意識がもうろうとする、そういうことがない体になってるんだ」
「それが、朱き泉の能力?」
「……」
 話したくない、そう言っている。
 だが、こうも付け足した。
「朱き泉に行けば、誰かが話してくれるさ」
 雅樹も、舞と同じように、見えない夜空を見上げていた。
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