KAB-studio > 風雅、舞い > 第十一章 AP (2)
風雅、舞い - 第十一章 AP (2)
「あんたどこ登ってきたのよ」
「そこの川。泉の能力使った方が速いんだもの」
「なるほど、それが朱き泉に行った収穫ってわけね」
 居間でくつろぐ4人に、お手伝いの楠井が茶を煎れる。母親の微妙な棘は無視して、本題に入る。
「……お母さん、お願いがあるんだけど」
「駄目よ」
 即答した。
「まだ何も言ってないのに」
「朱き泉にもっといたいっていうんでしょ? 駄目よ、学校行かなきゃ」
「違う」
「え?」
「朱き泉じゃなくて、別の所」
「同じじゃない」
 ずず、と茶をすする。
「確かに予言は重要よ? でもね、舞が留年するのは、駄目」
「出席日数はなんとかするから」
「嘘ね」
「う」
 こういう時の母は鋭い。
「……あのね。お母さんは、ちゃんと先を見て決めなさい、って言っているの」
 美咲は舞へと向き直って、言う。
「あなたが、本当に泉のことだけ考えるっていうんなら、そうしなさい。高校を中退したって、大学に行かなくたって、誰にもないものを得られるって、信じてる。でもね」
 美咲は俊雄と恭子を見た。ふたりの顔は、あからさまに心配そうだった。
「そういう生き方を心配する、大切な友達だっているんだから」
「あ……」
「朴君と一緒にいてそういう生活に慣れたからそうしたいんだったら、そういう目の前のことだけ見て決断するのはやめなさい」
「そういうわけじゃ……」
「元々、母さんだけここにいて、お父さんとあんた達を下に置いていったのは、そういう人生の方が幸せだったと思ったからなのよ? それを捨てるならそれ相応の覚悟をしなさい」
「……」
「もちろん、両方取りたいっていうのもアリだとは思うけど、それはね、舞」
 母の目は、現実を見た目。
「どちらかを取るよりもずっとずっと大変なことなんだからね」
 検索