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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (2)
「こちらでしばらくお待ち下さい」
 眼鏡を掛け白衣を着た研究員が、俊雄にそう伝える。カーディガンを着た俊雄は、研究室の隅に備え付けられたベンチに座り、機材の準備が整うのを待っていた。
 今日、これから何度目かの検査を行う予定だった。
 智子の話では、APになれる可能性があるというため、引き続き検査を続けていた。
 でも、その時の智子の表情は、否定的なものだった。
「…………」
 そのうえ、雅樹と舞がふたりで玄き泉に向かっている、という話を聞けば、今自分は何をしているのか、という気持ちにもなった。
 ううん、焦らないようにしないと……舞さんの所まで僕が行けばいいんだから……。
『こいつか?』
 聞いたことのない言葉が耳に届いた。
 見上げると、2メートル近い外国人の男がいた。白衣の中によれよれのシャツ、そのシャツに合わせたようなよれよれの金髪。口はガムを噛んでいるのかもごもごと動かし続け、目尻の下がった瞳で俊雄を見下ろしていた。
「あ、あの……」
 その姿を見て、俊雄は少し体を下げる。胸のプレートを見て研究員だということはわかったが、立ち上がることもなく、ただ見上げて、ぽかんと口を開けているだけだった。
『APってのはこんな間抜け面なのか?』
「???」
 男は不定なリズムのイタリア語で独り言のようにつぶやく。当然、俊雄はその言葉の意味を理解できない。
『おい、フィオ』
 後ろを向いて呼ぶと、とことこと、人形のような少女が現れる。金色の長い髪を後ろでまとめ、青い瞳をくるくると動かす。リシュネを二回り小さくしたような姿だったが、長袖と半袖のシャツを合わせ、ブルーのカットジーンズを履いたその姿は、リシュネとは真反対のようにも見えた。
『なにパパ』
『訳してくれないか。こいつに、お前の担当になったロベルトだと言ってやれ』
『はーい』
 フィオは俊雄の方を向いて、真面目な顔になり、
「このチビ、お前の面倒を見てやるロベルト様だ、忘れたらぶち殺すぞ」
 と流暢な日本語で説明し、にっこりと笑う。
『言ったよ、パパ』
『本当に伝わったのか? ま、どうでもいいか』
 ロベルトは後ろを向き、フィオもそれに付いていく。俊雄はそれを、口を開けたまま見送るしかなかった。
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