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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (3)
 高層ビルのてっぺん。
 その縁に座る少年は、後ろ手に気の抜けた表情で、景色を凝視していた。
「交代の時間」
 空から風を切ってリシュネが降りてくる。
「どう?」
「動きなし」
 凝視する先は、数十キロ先の天地生物科学工業。
「トラックの出入りは減ったよ。午前中に2台。人もあまり見掛けない」
「数は合ってる?」
「今日に限れば、ね。一ヶ月単位でなら、38人足りないけど」
 少年は立ち、建物のある方へと背を向ける。
「いい加減こっちから攻めた方がいいんじゃない?」
「一斉に攻められたらこっちが負ける?」
「かもね」
 リシュネの脇を通り過ぎる。
「……らしくない」
「……僕にも、僕らしさなんてわからないけどね」
 リシュネが振り向いた時には、すでに少年は飛び去っていた。
「…………」
 少しずつ、何かが狂い始めているように感じられた。
 あの密林での戦いから、雅樹の口数が日に日に減っていった。
 少年は、両親のことで頭がいっぱいのようだった。
 研究班は、そのふたりと、新しい実験体の追加で混乱しているようだった。
「左も、もう少し考えてくれればいいのに」
 と、意味のない愚痴を言う。性格も、目的も知っているリシュネにとって、現在の状況が左の最も望む展開だということは嫌というほど分かっていた。
 嫌、というほど。
「そっか……」
 前は、左のためだけに生きていた。それが、生きる上でのルールだった。
 だが、今の自分は、少しずつ変化していた。
 舞や雅樹に出逢い、朱き泉や碧き泉へと行き、違う世界を知った。
 違う考え方を知り、自分を超える者を知った。
 それを取り込んだことで、ルールは崩壊した。
 そう促したのは、左自身だった。
「なら、なんのために生きればいいのだろう」
 舞や雅樹のためだろうか。
 でも、その二人は今、側にいなかった。
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