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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (8)
「ねー、雅樹」
 舞の肌が高周波を上げて、皮膚と服から水分を取り除いていく。それに触れないよう智子は距離を取っていた。
「ここって、やっぱり赤葉様が言ってた……」
「ああ、多分あいつのいた泉だろ」
 朱き泉を襲った、玄き泉の洗礼を受けた者。
「確かにこれじゃ、廃れちゃうよね」
「まあな。それだけ、結白……お前の母親や、赤葉が苦労してるってことだろ」
「あ……」
 泉という、力さえなければ、いや、力があるからこそ、淘汰されてしまう土地。
「こういう場所は、努力しなきゃ消える運命なんだ」
「でも問題よね」
「確かに問題ですよね」
「機材、どうやって運ぼうかしら」
「へ?」
 舞には、その智子の悩みは論点がずれているように感じられた。
「どうしたの?」
「……研究よりまず、この泉を継ぐ者がいないっていうことの方が問題だと思います」
「ああ……そうね、それは問題だわ」
 智子にも、それが問題であることは理解していた。
 戦力としては、APがいれば十分かもしれない。だが、来年に訪れる災厄は、戦力とは関係なく、四つの泉、その洗礼を受けた者が必要なのだと左に聞かされていた。
 聞かされてはいたが。
「問題ね……」
 と口で言う間に、頭は別のことを考えていた。
 碧き泉や朱き泉では不可能だった研究も、ここでなら堂々と行うことができる。
「そうね、問題だわ」
 そうだ、必要ならヒトを使って――。
「聞いてます?」
「聞いてるわよ。とりあえず機材を運ぶから手伝って」
 智子は舞の肩を叩いて、外へと出て行った。
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