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風雅、舞い - 第十四章 混乱の我家 (10)
「ねー、ひとつ訊きたいんだけど」
 フィオが口を挟んでくる。リシュネは疲れた顔で見返すだけだった。
「AWっていうの、ここでは作らないの? 設備は整ってるし、技術者も数人割くだけでいいと思うんだけど」
「左が許可しない。そもそも左の目的は、私達APを作ることにあるんだから」
「目的?」
「それは左から聞いて。教えてもらえるのならね」
「それもそうね」
 左洋一という男を、フィオはまだ顔しか見たことがないが、それでもリシュネ達の話を聞いていれば鍵を握る人物ということはよく分かった。目の前の二人に聞くよりは効率的だろう。
「あともうひとつ」
「ひとつって言わなかった?」
「こまかいことは気にしないの。二人とも魔法の存在は知ってる?」
 リシュネも舞も、その言葉にはきょとんとした。
「魔法……?」
「まぁ私達の能力も魔法みたいなものだけど」
「そうじゃなくて、本当の意味での魔法。呪文を唱えると願いが叶う――たとえば水を凍らせるとか、ね」
 フィオは三人の中心にグラスを置く。グラスの半分ほど透明な炭酸水が残っている。
『――――――――』
 それは声ですらない音の連続。フィオの口から特殊な音階が紡がれ、それに合わせて手がダンスを踊るように宙を舞う。
「へ?」
「…………」
 目を丸くする舞、注視するリシュネ。
 最後に、ゆっくりと人差し指をグラスへと向け、触れさせる。
 瞬間、炭酸水は氷結、膨張しグラスを割った。
「!!」
「……確かに、魔法ね」
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