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Machician - 第2話 好きとスキと (9)
 すべての机が片側に押しやられた教室は、即席のリングとなった。
 高士がステップを踏み、ジャブとストレートを放つ。それをシーバリウはバックステップしつつ躱す。ふたりはダンスを踊るように教室を回る。リズム良く流れる風を切る音とステップ音。
「ちょっ、王子!!」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫って……高士君!!」
「……」
「あーもうっ!! 紫恋高士君止めて!」
「大丈夫、高士全然本気じゃないもの」
「へ?」
「あれってボクシングじゃない? うちの柔術は合気道みたいなのだから」
「ああ、組んで投げるっていうのだよね」
 以前、神社の脇にある道場で紫恋がくるくる回されているのを見たことがあった。
「なんか微妙に違うけど……まぁそういうこと。ただ遊んでるだけよ」
 ツッコミどころ多すぎるよ姉さん……手を抜いているのは確かだけど、当てるつもりは十分にある。
 むしろ遊んでいるのはこいつの方だ。
 高士が大きく踏み込み、左手を構えた瞬間右アッパーを放つ、が、それも難なく躱す。当てるつもりの一撃、フェイントを交えた計算上の動きが読まれているのか反応されているのか。それを見たうえで反撃してこないのだから、遊んでいるとしか言いようがない。
 もちろん、高士も本来の業は使っていないのだから、本気でないのは確かだ。それでもこの「ボクシングもどき」は、本気で躱そうとした父に当てる事ができていた。それが、当たらない。
「そろそろやめません?」
 苦笑いをするシーバリウにジャブで答える。
「余裕なんだな。絶対に勝てるっていう自信か?」
「自信がないから言っているんです。『勝負は時の運』という諺がありますよね。このまま続けていたらどちらかが大怪我するかもしれません。そうなってからでは遅いんです」
「ふん」
 じゃあ、大怪我なんてさせずに終わらせてみせる。
 高士の目が、本気になる。
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