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Machician - 第7話 灰色の鬼、白き翼 (11)
 宙の上。
 眼下に、見慣れない角度の鳥居。
「!!」
 その上をかすめるようにして石人は境内へと落ちる。地面に穴が空き、土砂が上へと吹き上がる。「けほっけほっ……!ッ」
 視界も呼吸もままならない中で、紫恋は放り出される。ささくれ立った地面が容赦なく体を削る。
「ううっ……」
 体中に、痛み。だが、それ以前に。
 体が、動かない。
「……」
 見上げると、そこに、石人。
 別に、叩かれた時のダメージは、ない。シーバリウの魔法によって、空気のクッションが直接的なダメージを防いでいた。
 だが、心は折れていた。
「は、はは……」
 あり得ない事だった。
 テレビでAPやら変な生物兵器やらの映像を見ていても。
 目の前でシーバリウの魔法を見ていても。
 その石人は、あり得ない存在だった。
「そうか……」
 紫恋は納得する。
 私は「死にたい」と願った。
 ――石片が擦れ合い異常な音を上げる。
 そか、今の「死にたい」って言葉に反応したんだ。
 ――その音は、歯ぎしりのように。
 この言葉、この私の意志に反応してるんだ。
 私の心が、この気持ちが餌なのかな。
 うめの顔が浮かぶ。
 あの笑顔に、もう顔は合わせられないし、食べられても――。
 その考えは、吹き飛ぶ。
 石人の頭部が、イソギンチャクのように、石片の触手として蠢く。頭部が傾き、紫恋へと向けられる。震え、振動し、回転する。石粉が舞い上がり、耳障りな音が紫恋を包む。
 それは。
 触れた物を血飛沫すら擦り潰してしまう、完全なる顎。
 手が震える。
 足が硬まる。
 涙が止まらない。
 想像の痛みが、現実の痛みのように体中を掻き回す。
「――――――――」
 声にならない悲鳴、ふいごのようにただ吹き出る息。
 やだ……。
 嫌だ……。
 嫌だ!!
 逃げたいのに、体が、動か
紫恋ちゃん!!」
 母の、声だった。
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