「紫恋さん!!」
空を飛ぶ紫恋へとシーバリウが併走する。
「杖無くて飛べるの?」
「ちょっと無理矢理ですけど……今は押さえるのが先です」
眼下、平行に並ぶ長屋をまたぐように飛んでいく。長屋の屋上は障害物が多く、その間に隠れるようにして逃げていく。
「私のこと止めに来たんじゃないんだ」
「……こうなったら仕方ないでしょう」
「ま、ね。直線はこっちの方が早いから、私が先に行って回り込むから」
「それは僕がした方がいいでしょう、僕なら下も速く走れますから、隠れて回り込むことができます」
「了解。私は囮もするわ」
「でも、絶対に危険なことはしないでくださいね!」
と言いつつ、シーバリウは下降していき、何かを唱えたかと思うと、一瞬にして百メートル以上前へと飛んでいた。
「……ありがと」
紫恋は少し高度を上げ、男を常に捉える。シーバリウの姿はもう見えなくなっていた。
「……?」
でも、と思う。
「なんで下の人混みに逃げ込まないんだろう。そっちに逃げ込まれたらアウトなんだけど、なにか理由があるのかな……」
理由のないことなんてない。意味不明の事象にも必ず理由はあり、それを読み取る事ができれば先手を取ることができる。
「……あれ、私のバッグだよねぇ」
普通、スリといったら複数犯で、すぐ荷物を渡すはず。でもあれは私のものに見える。ダミー? 魔法で幻影を見せられている? でもシーバリウも確認したはず。
「!!」
一瞬、気を許した瞬間、男は紫恋へと向き、飛び上がっていた。
「しまった!!」
「――」
無表情の男、漆黒の瞳が麦わら帽子の蔭から覗く。右手を音も無く振り抜き、逆手に持った黒石のナイフが紫恋の翼を切り裂く。
「!!!!!」
例えようのない痛み、心を斬り刻まれ嗚咽が堪らなく上がる。
「っ!?」
が、ナイフはその翼を完全に斬り裂くことはできず、光を撒き散らして弾き返される。ナイフを持つ手が逆方向へと弾かれ、体勢を崩して空を舞う。
『アルナバリッツィオ!』
「糞がっ!!」
目の前に突如現れた水榴を、男は両手両足を無理矢理叩き付け弾き潰す。しかしその体勢はさらに崩れ、屋上のプレハブにつっこむ。金属を切り裂く音と共に、中に入れられていた黄色い粉が吹き上がった。
空を飛ぶ紫恋へとシーバリウが併走する。
「杖無くて飛べるの?」
「ちょっと無理矢理ですけど……今は押さえるのが先です」
眼下、平行に並ぶ長屋をまたぐように飛んでいく。長屋の屋上は障害物が多く、その間に隠れるようにして逃げていく。
「私のこと止めに来たんじゃないんだ」
「……こうなったら仕方ないでしょう」
「ま、ね。直線はこっちの方が早いから、私が先に行って回り込むから」
「それは僕がした方がいいでしょう、僕なら下も速く走れますから、隠れて回り込むことができます」
「了解。私は囮もするわ」
「でも、絶対に危険なことはしないでくださいね!」
と言いつつ、シーバリウは下降していき、何かを唱えたかと思うと、一瞬にして百メートル以上前へと飛んでいた。
「……ありがと」
紫恋は少し高度を上げ、男を常に捉える。シーバリウの姿はもう見えなくなっていた。
「……?」
でも、と思う。
「なんで下の人混みに逃げ込まないんだろう。そっちに逃げ込まれたらアウトなんだけど、なにか理由があるのかな……」
理由のないことなんてない。意味不明の事象にも必ず理由はあり、それを読み取る事ができれば先手を取ることができる。
「……あれ、私のバッグだよねぇ」
普通、スリといったら複数犯で、すぐ荷物を渡すはず。でもあれは私のものに見える。ダミー? 魔法で幻影を見せられている? でもシーバリウも確認したはず。
「!!」
一瞬、気を許した瞬間、男は紫恋へと向き、飛び上がっていた。
「しまった!!」
「――」
無表情の男、漆黒の瞳が麦わら帽子の蔭から覗く。右手を音も無く振り抜き、逆手に持った黒石のナイフが紫恋の翼を切り裂く。
「!!!!!」
例えようのない痛み、心を斬り刻まれ嗚咽が堪らなく上がる。
「っ!?」
が、ナイフはその翼を完全に斬り裂くことはできず、光を撒き散らして弾き返される。ナイフを持つ手が逆方向へと弾かれ、体勢を崩して空を舞う。
『アルナバリッツィオ!』
「糞がっ!!」
目の前に突如現れた水榴を、男は両手両足を無理矢理叩き付け弾き潰す。しかしその体勢はさらに崩れ、屋上のプレハブにつっこむ。金属を切り裂く音と共に、中に入れられていた黄色い粉が吹き上がった。