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風雅、舞い - 序 (3)
 振り向いたその先には、白いテーブルに似合わない色黒の青年が、これまたミスマッチなアイスクリームを食べていた。その顔は、舞の方を向いていなかった。黒いジャケットの背しか見えなかった。
「そっか、チョコミントか……やっぱしチョコだけの方がいいな」
 そう、その男は言った。
 誰もいない方へ。
 舞の視線=青年の視線のはず、だけどそこには誰もいない。誰も、いないのに、話しかけて、いる――ヤバイ。
「何言ってんだよー、別にそんなわけじゃ……え? 後ろ?」
 青年は、くるりと後ろを向いた。
 重なる視線、瞳、時間。わずかな間、二人は見つめ合っていた……ほんのわずかな間。
 青年は、慣れているかのように苦笑いした。
「ごめんな、気になっちゃったか。いや、もう立ち去るから」
 そう言ってコーンのしっぽを口に放り込むと、すっくと立ち上がった。舞が見上げるその姿は、とてつもなく高く見えた。黒いナイロン製のジャケットと赤のタンクトップ、そして空色のジーパン――どれもが使い古されたように所々裂けていた。そして、それが似合うほど、青年はたくましく見えた。
「ん? 結構うまかったよ。ホントだって!」
 またもやあさっての方向に話しだし、それが舞の心を砕いた。いい男なんだけど、これじゃ論外……。
「知り合い?」
「え? ううん、違う違う」
 再び会話に戻っても、なんか落ち着かなかった。また振り向いてみたい、という衝動に駆られるが、なんか変な目で見られそうだから、やめた。
 変な目で見られるのは、嫌だ。
 その場を離れようとしていた青年が、振り向いた。
「え……?」
 俊雄が、後ろを向く。舞が、その視線の先を追う。木々の向こう、公道から、車の音が聞こえる。その音はどんどん近づいてくるようだった。
 その音は、本当に大きくなっていった。
「……何?」
 桜が舞い散り芝生が巻き上げられる。木々に囲まれた丘の上から飛び出してきたジムニーが、とんでもない高さから着地して、バウンドした。
「ドラマみたい……」
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