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風雅、舞い - 序 (5)
 舞はすっくと立ち、3人は、舞とジムニーを交互に見るようにしながらゆっくりと立つ。
「……舞?」
 舞は、応えなかった。お財布の中を探るが、札は一枚きりだった。その財布を投げ捨て、睨み付ける先は、損壊した車。
 車内に、動く影。血塗れの体を執念で起こし、ゆっくりと、銃を持ち上げる。砕け散ったフロントガラス越しに、舞を狙う。
 札を使わずに水を操る、長い間していないその業を使う自信はなかった。男の銃は、震える手のままにその照準を狂わせていた。自信がなくても、やるしかない。
 グローブをはめた指が、ゆっくりとトリガーを引く。舞が、ゆっくりと構える。
「赤炎発破!」
 その後ろからの声に、舞は振り向く。
 あの、青年。
 自らの前に掲げた右腕に、紅蓮の炎がほとばしっている。そして、その炎を振りかぶる。
「爆炎投射!!」
 右腕を、裏拳を放つかのように大きく振った時、炎はその右腕を離れ、わずかに放物線を描き、舞のすぐ側をかすめて、目標に直撃した。
 これまでで一番大きな音と衝撃波が車の破片を吹き飛ばし舞のスカートをはためかせた。とっさに自分の体をかばい、怪我がないことを確認してから、ジムニーを見る。だが、そこにはすでにそのような車は存在していなかった。ただ白い煙を上げる金属の塊が置かれているに過ぎなかった。
 舞は再び後ろを向く。だが、そこにはすでに青年はいなかった。
 私を救ってくれた、命の恩人は。
「舞!」
 急に肩を抱かれて、振り向けばそこには泣きはらした恭子の顔があった。
「舞、大丈夫だった? なんか、なんか……」
 恭子は錯乱しているようだった。残りの男二人――信吾は、しゃがみ込んで立ち上る煙をずっと見続けていた。俊雄は松葉杖をつきながら舞の方へと近づいて、そこで、制止した。
「……今の、は……?」
 舞はうつむき、恭子は顔を上げる。
「舞さんが叫んで、水が登って、落ちた。その後、さっきまでそこにいた男の人が、叫んで、そうしたら火の塊が飛んだ」
「火の方は判らないけど、水は、私のせい」
 舞は、空を見上げた。
「私の、せいなの……」
 何をしていたのか、今頃になってパトカーが押し寄せ、野次馬も徐々に増えていき、公園一帯は喧噪に包まれた。
 その角で、四人はただ押し黙っているだけだった。
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