「今日くらい休んだっていいんじゃないのか？」
　そう奨は、すでに朝食も着替えも終えている舞に言った。
「大丈夫よ、式の疲れなんてほとんどないし、それに学校に行って色々確かめたいし」
「そ、か」
　昨日の事が、本当に誰にも知られていないことなのか、自分の事が、本当に誰にも知られていないことなのか……その確証が欲しかった。
　あまり、恐怖は感じていなかった。
「あんまり、無理はするんじゃないぞ」
　白髪の混じった父がエプロン姿で食器を洗う姿ももう見慣れた。
　こういう光景、大事にしたい。
「解ってるって。じゃ、行ってき」
　突然電話が鳴った。三人はいきなり黙って顔を見合わせた。お互いうなずいてから、父がゆっくりと電話を取った。
「はい、結白です……美咲！？」
　兄弟ふたりは顔を見合わせた。
「母さんだ……」
「まさか……もうばれちゃったの？」
「そんなわけないって」
　そんな風に言い合っている間に、電話は切れていた。
「あれ、いやに短いね父さん」
「……今東京駅に着いた所だそうだ。何か、急な事態が起こったらしい」
　その正の顔は、今まで以上に深刻だった。
「母さんが、泉を離れるほどの理由……」
「……キャーッ！！　遅刻しちゃうよ、いってきまーす！」
　そう言って舞は玄関を出ていった。
「いつも明るいな、舞は……そういえば、おまえは行かないのか？」
「俺は今日休むよ」
「行きなさい」
　正は青筋立てて言った。