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風雅、舞い - 第一章 予言と運命 (2)
 自転車を駆りながらも、舞は考える――ニュースにならなかったわけ、母が来るわけ、これからどうなるのか、そして――。
 ふと、昨日公園で出逢った、あの青年を思いだした。
 炎を操る青年を。
 まだ、お礼言っていなかったな……私が水を操るように、あの人は炎を操った。単に式を使える人なのか、それとも、私と同じ「泉」の洗礼を受けた人なのか……。
 能力有る者。ママチャリのバケットの中でディパックが揺れる。その度、ディパックの中の水筒が音を立てた。その脇には札束のようにまとめられた護符が入っているはず。これだけあれば、式を思う存分使うことができる。
 力、使いたくなかったな……。
「舞!」
「うわっ!」
 いきなりの恭子の声に、自転車が揺らいだ。
「ちょっちょっと、気を付けてよ!」
「何言ってんの、恭子がいきなり驚かすから」
 体勢を立て直してから、速度を緩める。
「新聞、載ってなかったね」
「なんかヤバイ感じしない?」
「それより今は今がヤバイよ!」
 そう言われてから恭子は学校に間に合わなくなることに気づく。
「あと5分もないよ!」
「恭子、乗って!」
「うん!」
 恭子が舞の肩に手を掛け、ステップを踏んだ瞬間。
『二人乗りはいけないんだよ』
「!!」
 ハンドルがぐらつき、再び自転車はコントロールを失った。恭子はタイミング良くステップから離れてうまく着地して、叫んだ。
「ちょっと舞! 何や……ってっ……」
 恭子の目の前で、自転車は完全にバランスを崩して、舞を放り出した。
 宙を舞うその間、その永遠のように長い時間の中で、舞は。
 子供の、少年の声だった。
 そう確信していた、閉ざされた永遠の時間の中で。
「舞!!」
 再び動き出した時間、舞は地面を転がり、そして、止まった。
「……舞?」
 信じたくない、そう思いながら近づいてくる恭子の目の前で、舞は目をぱちくりさせて、すっくと立ち上り、笑った。
「あはは、なんか大ぼけかましちゃったみたい」
「舞……」
 その笑顔に、心配させる友達に、涙さえ流れそうだった瞬間、目の前の少女の眉間にしわが寄った。舞が振り向き睨み付けたその先に、少年がいた。不適な笑みを浮かべる少年が、いた。
「自分達が決めたルールは、ちゃんと守らなきゃ」
 それだけ言うと、霞のように消えた。
「誰なの、あの子……今の、あの子が?」
 舞を目の前にして、恭子はそういうことが起きても不思議ではないと感じていた。
「何かが、起きる」
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