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風雅、舞い - 第一章 予言と運命 (5)
「家に入るのは久しぶりだけど、うまくやってるみたいじゃない」
 美咲は、もう少し散らかしていると想像していたが、そういった感じは全く見受けられなかった。別段、急いで片づけた形跡もない。
「二人とも手伝ってくれるからな」
「そんな、父さんががんばってくれてるから」
「聞いてはいたけど、今日見てみて、やっとほっとしたな」
 でも、ちょっと寂しいかな……。
「……で、いい加減話してくれないか」
「ダメよ、舞が帰ってきてから話すわ」
「でも、大事なことなんでしょ?」
「大事なことだからよ。洗礼を受けたのは舞だけなんだし」
 洗礼、それは伝承としてしか残っていなかった。もしかしたら、単に苦痛を与えるだけの修行の場ではないか、そうとさえ思われていた。
「舞には能力も、天賦の才能もあるわ」
「だが舞は……継ぐ気はないそうだ」
「知ってるわ、けど……」
 誰かが継がなくてはならない。そうとなれば、舞か奨か、どちらかしかいない。
「俺は、継いでもいいけど……」
 でも、舞が継ぐべきなのは明白だった。あまりにもうってつけすぎる。高すぎる能力が、舞を縛っていた。
「それはともかくとして、話は聞いておきたいな。まだ帰ってくるまでには時間あるし」
「……分かったわ」
「そうか」
「その前に紅茶でも」
「私が煎れた」
「あ、そう……」
 美咲がダイニングの椅子に座り、元々座っていた奨が姿勢を正し、ティーカップを三つテーブルに置いてから、正も座る。
「一週間前の朝、碧き泉が突然光り出したの」
「泉が光った!?」
 そんな話、聞いたことがない。
「そう、で、昔の文献とか日記とか引っぱり出して調べたのよ、そしたら、こんな伝承があったのよ……」


碧き泉光る時、始まりの日
これより拾弐度目の満月、その元で闇、再び蘇るであろう


「ねえ……母さん知らなかったんなら、伝承じゃないんじゃない?」
「う”、鋭い……ってそれはともかく、まだ続きがあるのよ」


しかしまた、四つの力現れ、闇の者と闘う運命に有り
すなわち、四色の泉に力を授けられし四つの光なり


「四つの力……」
「ってことは、その中の一人が舞だってことか?」
「それはそうでしょ。私が舞にこだわったわけ、わかったでしょ?」
「でも、舞には酷すぎない? なんだかんだ言ってもまだ十七歳なんだよ」
「もう泉のことを蒸し返さないで欲しい、って気持ちは解らなくもないわ。私だって、今回みたいなことが起きるとは思ってもみなかった。でも……」
「運命、か……」
 奨が両拳とテーブルに叩き付ける。跳ね上がった紅茶がテーブルを濡らした。
「いつだって、いつだって運命だ……もう舞を放っておいてやれよ……昨日のことだって……」
「昨日のこと?」
 奨の言葉に動揺しつつも、美咲は正に訊く。
「昨日、舞が発砲事件に巻き込まれた」
「は、発砲事件って……」
「何者かは分からないが、公園でいきなり銃を乱射したらしい。その場に居合わせた舞が、その者達に式を使ったんだ」
「それじゃあ、もうここには」
「でも、新聞にもニュースにも載ってなかったんだ」
「……本当なのね」
「ああ、早く言おうと思ってたんだが」
「舞の学校はどこ!!」
 美咲は立ち上がり、そう叫んだ。
「ど、どうしたんだ美咲」
「何言ってるの!! 闇の者って言ってもどんな存在なのか全く見当も付かないのよ! もし昨日のそれが闇の者の仕業だったのなら」
 真っ先に家を飛び出したのは奨だった。
「今車を出す。少し待ってくれ」
 自転車を駆り舞の高校へと走っていく奨を、美咲は心配そうに見送った。

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