外はもう紅色。四人は俊雄の教室にいた。
「帰らなくっちゃなー」
「これで五度目だよ」
そんな風に、のんびりしたい舞だった。
「でも」
俊雄が、深刻な顔を向けた。
「判ってるけど、ね」
舞の苦笑いは、本当に苦々しそうだった。三人とも、声を出すことができなかった。
小さな声で、本当に小さな声で、舞は、笑った。
ひどく傾いた陽の光が、四人を照らした。長く黒い影が教室の壁にもう一つの姿を映し出す。舞は、その影を見る。
「誰にだって直視したくない現実があるのよ。影の部分、闇の部分」
「でも」
振り向いた俊雄の姿は逆光に照らされていた。その光は、まぶしかった。
「光も闇もあるから、いいんでしょう?」
「闇は誰だって受け入れたくない」
「でも、乗り越える手助けを、僕にはできる」
俊雄の、笑顔。
恭子の、信吾の笑顔。
舞は、切なくなった。そして、苦々しく思う。
「なんかあたし、だんだん意地悪になっちゃう」
「?」
乱暴にバッグを降ろし、開く。銀色の水筒が露わになった。それに手を掛けて、背後の扉を睨んだ。
「今は、とことん現実と戦いたい気分かもね!!」
教室の扉が蹴破られ、それが窓ガラスに当たって浮いた。
「な……に?」
恭子の声は落下した扉にかき消された。四人の視線が集まる先にいる物体は。
「犬……」
だった。
「しかも特大のね!」
おそらくそれは犬なのだろう。大きささえ無視すれば、犬としか言いようがなかった。だが、教室の中に入るにも壁を壊さなければならないほどの犬がいるわけがない。よだれを垂らし、視線もひとつに定まっていなかった。
「……怖いッ!」
舞にしがみつく恭子。舞の表情が曇り、それを見た俊雄が、手近な机を持ち上げた。
「って、ちょっと待って!」
振り返らずに、俊雄が言う。
「見せて、みせるよ」
吠え声とも取れる大きな声を上げ、俊雄は机を両手で投げ飛ばした。松葉杖を失いバランスを崩して倒れながらも、その相手を見ることだけはやめなかった。机は、大きな放物線を描いて巨大な犬の鼻面に当たった。
犬は悲痛な叫び声を上げ、のたうち回った。それは危険ではあったが、視線を逸らすことにはなった。舞は三人をつれて教室の外へと出た。
「帰らなくっちゃなー」
「これで五度目だよ」
そんな風に、のんびりしたい舞だった。
「でも」
俊雄が、深刻な顔を向けた。
「判ってるけど、ね」
舞の苦笑いは、本当に苦々しそうだった。三人とも、声を出すことができなかった。
小さな声で、本当に小さな声で、舞は、笑った。
ひどく傾いた陽の光が、四人を照らした。長く黒い影が教室の壁にもう一つの姿を映し出す。舞は、その影を見る。
「誰にだって直視したくない現実があるのよ。影の部分、闇の部分」
「でも」
振り向いた俊雄の姿は逆光に照らされていた。その光は、まぶしかった。
「光も闇もあるから、いいんでしょう?」
「闇は誰だって受け入れたくない」
「でも、乗り越える手助けを、僕にはできる」
俊雄の、笑顔。
恭子の、信吾の笑顔。
舞は、切なくなった。そして、苦々しく思う。
「なんかあたし、だんだん意地悪になっちゃう」
「?」
乱暴にバッグを降ろし、開く。銀色の水筒が露わになった。それに手を掛けて、背後の扉を睨んだ。
「今は、とことん現実と戦いたい気分かもね!!」
教室の扉が蹴破られ、それが窓ガラスに当たって浮いた。
「な……に?」
恭子の声は落下した扉にかき消された。四人の視線が集まる先にいる物体は。
「犬……」
だった。
「しかも特大のね!」
おそらくそれは犬なのだろう。大きささえ無視すれば、犬としか言いようがなかった。だが、教室の中に入るにも壁を壊さなければならないほどの犬がいるわけがない。よだれを垂らし、視線もひとつに定まっていなかった。
「……怖いッ!」
舞にしがみつく恭子。舞の表情が曇り、それを見た俊雄が、手近な机を持ち上げた。
「って、ちょっと待って!」
振り返らずに、俊雄が言う。
「見せて、みせるよ」
吠え声とも取れる大きな声を上げ、俊雄は机を両手で投げ飛ばした。松葉杖を失いバランスを崩して倒れながらも、その相手を見ることだけはやめなかった。机は、大きな放物線を描いて巨大な犬の鼻面に当たった。
犬は悲痛な叫び声を上げ、のたうち回った。それは危険ではあったが、視線を逸らすことにはなった。舞は三人をつれて教室の外へと出た。