部屋の中央にでんと構えるオブジェクトは、よほどのことがない限り動き出せそうには見えなかった。犬を包み込む氷は白く霜がかかっていて、その姿ははっきりとは見えない。
「終わったみたい……ね。あ!」
見れば、雅樹の頬にわずかな傷があった。
「もしかして当てちゃった!?」
「いや、違うだろ。それに、こんなもの傷のうちに入らないし」
血を拭いたあとの傷跡が、見る間に消える。
「火の能力で、傷を……?」
「いんや、俺は不老不死なんだよ」
「不老不死ぃ?」
「あ、そこ笑うとこじゃないぞ! で、こいつはどうすんだ?」
とりあえず一段落ついて、二人はそのオブジェを見ていたが、この犬をこれからどうしたらいいのか考えあぐねていたし、さらにこの部屋はかなり寒かった。
「……そんなに暇でいられるわけじゃなさそうだな」
雅樹は一歩前に出て、舞の前に立ち、右腕を掲げる。
「蒼炎焦焼!!」
その右腕を蒼い炎が走った。目の前に立っている雅樹が気に入らないが、その気迫は舞の自由を奪っていた。
「どうしたの?」
「いる」
雅樹は調理実習室のドアを睨み付けていた。
唐突にそのドアが真っ二つに割れ、宙に飛んだ。犬が吹っ飛ばしたときと違うのは、その二つに別れたドアが慣性の法則に逆らって止まり、さらに宙に浮き、方向転換し、割れてささくれ立った所を二人に向けてから、再び加速を始めたことだった。
「水槍よ貫け!!」
「焦炎槍射!!」
蒼と紅、二つの槍が同時に二つのドアを破壊した。
「ま、こんなもんでしょ」
二人は親指を立てた。
パン、パン、パン、パン――その生意気そうな拍手を聴いたとき、舞はその姿をほぼ確信していた。
「あの、少年」
登校時に現れた、あの少年だった。服装は全く違い、全てが白のスーツというおよそ子供らしくない姿だった。
「誰なんだ、あいつ」
「あの子、今日……」
と言いかけて見れば、雅樹は反対側を向いて話を聞いていた。肘。
「はうっ!!」
「……あの子、力使えるわよ、きっと」
「なんなんだよいったい……」
「仲がいいんだね、二人とも」
その言葉に二人は再び戦闘態勢を取る。
「何者だ、お前は」
「まあ待ってよ。物事には順序っていうものがあるんだから」
余裕しゃくしゃくで、少年は一歩一歩進み、氷のオブジェの隣に立った。その表面を指で撫でれば、白いベールの中の苦痛に満ちた顔が露わになった。氷の表面に少年の顔が写る。
「ま、こんなもんかな」
か細い少女のような人差し指が、水色のグラデーションに当てられていた。何かを、呟く。表面に、ひびが入った。
全ての氷が砕け散った。部屋中白い氷破砕片が飛び散った。
「ちっ!!」
雅樹の蒼い炎が二人を包み、細かい氷の粒を遮った。
「散らばるぞ!!」
「う、うんっ」
炎が飛び散ると同時に雅樹は右に舞は左に跳び退く。そして、二人は構えた。
「……えっ!?」
霜はほとんど消えて、視界はすでに晴れていた。真っ白になった教室の黒板の前に立っているのは、その少年だけだった。
その少年の足下に、水たまりの下に溜まる真っ赤な液体と、奇妙な色に変色したゼリー状の塊と薄茶色と白の毛の束が氷の塊と共に見えた。
「!!……」
舞は口を押さえた。雅樹は表情を変えていなかったが、自然と眉間にしわが寄っていた。
「終わったみたい……ね。あ!」
見れば、雅樹の頬にわずかな傷があった。
「もしかして当てちゃった!?」
「いや、違うだろ。それに、こんなもの傷のうちに入らないし」
血を拭いたあとの傷跡が、見る間に消える。
「火の能力で、傷を……?」
「いんや、俺は不老不死なんだよ」
「不老不死ぃ?」
「あ、そこ笑うとこじゃないぞ! で、こいつはどうすんだ?」
とりあえず一段落ついて、二人はそのオブジェを見ていたが、この犬をこれからどうしたらいいのか考えあぐねていたし、さらにこの部屋はかなり寒かった。
「……そんなに暇でいられるわけじゃなさそうだな」
雅樹は一歩前に出て、舞の前に立ち、右腕を掲げる。
「蒼炎焦焼!!」
その右腕を蒼い炎が走った。目の前に立っている雅樹が気に入らないが、その気迫は舞の自由を奪っていた。
「どうしたの?」
「いる」
雅樹は調理実習室のドアを睨み付けていた。
唐突にそのドアが真っ二つに割れ、宙に飛んだ。犬が吹っ飛ばしたときと違うのは、その二つに別れたドアが慣性の法則に逆らって止まり、さらに宙に浮き、方向転換し、割れてささくれ立った所を二人に向けてから、再び加速を始めたことだった。
「水槍よ貫け!!」
「焦炎槍射!!」
蒼と紅、二つの槍が同時に二つのドアを破壊した。
「ま、こんなもんでしょ」
二人は親指を立てた。
パン、パン、パン、パン――その生意気そうな拍手を聴いたとき、舞はその姿をほぼ確信していた。
「あの、少年」
登校時に現れた、あの少年だった。服装は全く違い、全てが白のスーツというおよそ子供らしくない姿だった。
「誰なんだ、あいつ」
「あの子、今日……」
と言いかけて見れば、雅樹は反対側を向いて話を聞いていた。肘。
「はうっ!!」
「……あの子、力使えるわよ、きっと」
「なんなんだよいったい……」
「仲がいいんだね、二人とも」
その言葉に二人は再び戦闘態勢を取る。
「何者だ、お前は」
「まあ待ってよ。物事には順序っていうものがあるんだから」
余裕しゃくしゃくで、少年は一歩一歩進み、氷のオブジェの隣に立った。その表面を指で撫でれば、白いベールの中の苦痛に満ちた顔が露わになった。氷の表面に少年の顔が写る。
「ま、こんなもんかな」
か細い少女のような人差し指が、水色のグラデーションに当てられていた。何かを、呟く。表面に、ひびが入った。
全ての氷が砕け散った。部屋中白い氷破砕片が飛び散った。
「ちっ!!」
雅樹の蒼い炎が二人を包み、細かい氷の粒を遮った。
「散らばるぞ!!」
「う、うんっ」
炎が飛び散ると同時に雅樹は右に舞は左に跳び退く。そして、二人は構えた。
「……えっ!?」
霜はほとんど消えて、視界はすでに晴れていた。真っ白になった教室の黒板の前に立っているのは、その少年だけだった。
その少年の足下に、水たまりの下に溜まる真っ赤な液体と、奇妙な色に変色したゼリー状の塊と薄茶色と白の毛の束が氷の塊と共に見えた。
「!!……」
舞は口を押さえた。雅樹は表情を変えていなかったが、自然と眉間にしわが寄っていた。