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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (2)
 いつもの公園。
 芝生の上で、四者四様の部活動をしている四人。信吾は寝転がり、恭子は水彩紙を目の前にしながらも筆は動いていない。俊雄はなんの用意もせず、ただ中央の池を見ているだけだった。その脇に、松葉杖はない。
 舞ただひとりは、絵をせっせと描いていた。
 四人の間に、会話はない。
「……」
 先日の学校損壊騒ぎからそれなりに日は経っていた。ゴールデンウィークに入り、一息着けるはずだった。
 けれども、緊張感はいまだ溶けていない。
 何かが起こり始めている……それは判っているのに、その後が何も続いていない。学校はほとんど使い物にならず、プレハブ校舎で全生徒の三分の一ずつが授業を受け、学校中に噂が回っている。
 幸運なことに、舞の戦っている姿を見た人はいなかった。でも、あの犬を見た人は多く、血と水と氷に溢れた調理実習室と授業のできない校舎は怪事件の証拠としてしっかりと残っていた。
「なんで――」
 信吾はそうつぶやいた。
「――……」
 言葉は、続かなかった。
 言葉は続かなくても、俊雄は、立ち上がった。
「どこから、どうやって、どんなふうに調べるの?」
 そうクールに言い放ったのは、舞だった。舞は俊雄の意外そうな笑顔を観て楽しんだ。
「私に水を操る力があっても、マスコミとか国家権力と戦うのはちょっときついかな」
「でもさ、なんか……じっとしていられないよ」
「あたしもそうかな」
 恭子も立ち上がる。
「あの犬には勝てなくてもさ、新聞社に訊きに行ったりとか、そういうことは私達にもできるし」
「だいたいさ、そのとんでもない相手っていうのがその国家権力とかマスコミとかだったらどうするんだよ」
 信吾も立ち上がり、そう熱弁した。
「なーんか、みんな熱血してるね」
 あきれる舞に信吾は二の句を告げようとしたが、恭子はそれを止めた。
「そういえばさー、あの朴さんって言ったっけ、舞の王子様」
 俊雄はできるだけ表情に出るのを抑えて、舞は隠そうともせずに色めきだった。
「誰が王子様よっ!」
「だってあの人、舞を護るために来たんでしょ?」
「母さんが勝手に頼んだだけだもの、第一あんなヤツいなくたって」
「ふうん?」
 恭子は(舞にとっては)いやらしく笑い、舞と俊雄を見比べた。
「でさ、その朴さんの所、行ってみない?」
「なんで!?」
 そう声を上げたのは俊雄の方だった。声が大きすぎたと自分でも感じて、元々赤かった顔をさらに赤らめる。
「なんで……そいつの所に」
「そういえばその人、超能力で他の場所のものが解るって言ってたな」
 余計なことを信吾を睨み付ける二人。
「正確には、見えない女神様が助けてくれるそうだけどね」
「それだって本当かどうか」
「そうだよ、そんな占い師みたいなの信用できないよ」
「でも、その人に掛け合ってみてみるのが今の最善策なんじゃないかな」
「舞の家の近くってことは、ここからもそんなに遠くないわけだし」
「確かに理に適ってる……けど」
「けどぉ……」

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