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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (3)
「なんだかんだ言っても、結局ここに来ちゃうわけね……」
 三人はその二十階はある高層マンションを見上げていた。舞ひとりはそのマンションの臨時駐輪場に自転車を止めていた。
 手慣れているなぁ……俊雄はそう思った。
 レンガ色に囲まれた中にとけ込む銀色のパネルを前にして、舞は迷うことなく雅樹の部屋の番号を打ち込んだ。密かに留守であることを願って。
『あれ舞、どうしたんだいったい』
「呼び捨て……」
 思わず恭子の口をついて出た言葉に舞はさらに恥ずかしくなった」
「朴さん、クラスのみんなが話したいんだって」
『? 話?』
「この前の学校での騒ぎからなんにもないでしょ、それでさ……」
「それで、朴さんの助言を仰ぎたいと思いまして、上がってよろしいでしょうか」
 恭子はそう半ば強引に頼み込んで、雅樹は少し悩んで、脇を向いてから答えた。
『ああ、いいよ。今開けるから』
 ガラス戸のロックが開き、四人は入っていく。
「誰か他に女の人でもいたりして」
 信吾のちゃちゃに舞はさらりと答える。
「柊さんよ。ほらあの私達には見えない人」
「本当にその柊さんっていう人、いるのかな」
「いるわけないでしょ」
 そうはっきりと断言する舞。
「そこまで断言するのはちょっとと思うけど」
「力を持ってる人っていうのは、何となく分かるのよ、その雰囲気っていうか、普通じゃない何かを匂わせるんだろうけどね」
「『気』みたいなもの?」
「どうなのかな……そういう感じ、柊さんの感じがどこにもないのよ」
「幽霊みたいなもんでも、そういうのは発してるってことか」
「だからね、信憑性がないのよ、柊って女性がいるっていうね」
 四人はエレベーターに乗る。ガラス戸から見える中庭は、きれいな庭園のようになっていて、登っていくエレベーターから見るその景色はなかなかきれいだった。
「そう考えると、朴さんって多重人格なのかな」
「そういうのとは違うみたいだけどね。演技とは思えないし……」
「ほら、昔のドラマとかにあったよね、死んじゃった息子がいつまでも側にいるように感じる母親の話とかさ」
「ってことは、柊さんって死んじゃった昔の彼女とか?」
「……なんか悪いよ、そんなこと言っちゃ」
「あ……」
 その俊雄の言葉が、会話をとぎれさせた。でも、舞は、なんかいい感じかな、と思った。
 中庭の光景が点ほどにまでなってから、エレベーターは止まった。
「でも実際――」
 そう話し出したのは、舞だった。
「朴って、よく解んないところ多いかな。まぁ、普通そうなんだろうけど、得体の知れなさっていうの、強く感じる」
「舞さん……」
「そんなのに……」
 舞の拳が震えた。
「そんなわけわかんないヤツになんで護られなきゃいけないのよっ!!」
 震える拳がチャイムに叩き付けられ、「ピン・ポーン」と軽やかな音が流れた。
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