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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (4)
「おじゃましまーす」
 と四人は上がって、その男一人暮らしの部屋を見て「らしくない」と思った。
 とにかく何もなかった。確かに引っ越してから数週間が経っただけとはいえ、家具は初めから備え付けのものだけ、良くありそうな雑誌の類はなく、まるで塵ひとつもないようなきれいさだった。
「きれい好きなんですね、朴さんて」
「暇なんでね、掃除くらいしかすることないから。それにお前がきれい好きだからね」
 一瞬自分に言われたんだと思った恭子は顔を赤らめてぎょっとするが、雅樹の顔はあさってを向いていた。
「柊さん……のことね」
「仕事はしてないんですか?」
「んなもんかったるくて」
「ぷーたろう」
 舞の小声は雅樹に届いていても無視した。
「働いてないって……」
 さらに奥の方を見に行く舞を除いた三人は、その部屋の数に驚かされる。考えてみれば、このマンションの外観を見れば、その値段の高さは容易く想像できた。
「舞さんの家がお金出しているんですか」
「ばっ違うわよ」
 俊雄の疑問をあわてて払拭する舞。
「あのなんでも見る力、それでなーんか悪いことしたみたいよ」
「そうそう、君達俺のこと詮索しにきたわけじゃないんだろ?」
 あ、と今頃気づいたような信吾と恭子がテーブルへと座る。雅樹の煎れた紅茶がひとりずつに出される。
「否定ぐらいすればいいのに……」
「ん? 何、舞さん」
「ううん、なんでもないの」
「で、用件は?」
 雅樹がどっかと椅子に座り、足を組む。背は高い、足は長い、その体格は威圧感があった。しかも、服装はラフで、顔つきも少し怖いように見える。
「え、ええと……」
 雅樹という男を正面に捉えて、面と向かわれて問われると、恭子はにわかにあわて始めた。考えてみればほとんど初対面の相手に自分達の調べ事を頼むというのはかなりあつかましいことだったし、第一それは副次的な目的であったわけで、いざ説明するとなるとしどろもどろするほかないという感じで……。
「あんたが来る前の公園の事件と、この前のガッコのこと。二つともマスコミに出なかったって言わなかったっけ?」
「んなこと言ったっけ? ……言ったか」
 脇を見て確認を取る雅樹。
「つまり、それを調べて欲しいのか。確かに黒幕の気配、感じられるな」
「そうですよね、何か匂いますよ」
 信吾が変な敬語を使って口を挟む。
「第一、月が光ったり消えたりするの待つ必要なんかないんじゃねぇか、とっとと終わらせればこんなとこにじっとしていなくていいしな」
 雅樹は一気に紅茶を飲み干すと、すっと立ち上がって言った。
「んじゃ、ちょっくら出かけてくるわ」
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