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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (9)
 マンションを出ると、一行はてくてく歩き出した。舞も自転車を推していく。
 俊雄は、いつものように舞の横をではなく、雅樹の横に付いて歩く。舞はその二人並ぶ後ろ姿を見ていた。
 俊雄は、できるだけ気づかれないように、雅樹を見ていた。自分の左側で歩くその男は、まさにそびえ立つ、そういう感じだった。
 俊雄の父親は、自分と同じくらいの高さだから比較できない。俊雄の兄は背は高いがスポーツをしてないから筋肉質じゃない。何度か経験した大学生とのサッカーの試合でも、同じような雰囲気を持つ人はいないと感じた。監督や、まれに会うことのできるプロの選手にも、感じた覚えはない。
 そこから導き出された答は「このプレッシャーは体格差だけじゃない」。強靱な精神、確固とした自信、そして――もし存在するのなら――パートナーとの絶対の信頼。
 大人の、本当の、男。
 もし自分の予想が当たっているのなら、舞が雅樹に魅かれるのも無理はない、そう思えてしまう自分が悲しい、そう俊雄は感じた。
「ん? なんだ?」
 雅樹は俊雄の方を見る。俊雄は思わず顔を背けて、何事もなかったかのように歩き続ける。そんな二人を、舞は後ろから見つめる。
 舞にとっても、雅樹との「出逢い」は男性観を大きく変えるものだった。今まで夢物語だと思っていた存在。「男」という定義そのもののような感じを舞は受けていた。
 と感じはするが、考えれば、少し違うかなとも思う。「男そのもの」というイメージはなんかアレな感じだと思うし、そういうのから来る攻撃的なイメージは雅樹からは連想されない。かといって、雅樹からは強い力を感じる。
 歩きながらふと、包容力、そういうような言葉がふと思いついた。
 雅樹には母性的な部分を感じることが度々あった。もちろん、外見はどうやってもそうは見えないし、また、生活感のかけらも感じさせない。けど……。
 山奥の祠に隠りっぱなしの母親。その母親を見限った私達。それでも母との接点を持つ父。クールな目で見つめる兄と私。
 雅樹は、ドライなのにウェットな感じを抱かせる何かがあるように感じられた。それは、いつも見せている笑顔がそう感じさせるのか、見えなくても存在感を抱かせる穂香のおかげなのか、それとも……。
 と、気づいたら雅樹のことを考えている自分を舞は恥ずかしく思う。だいたい「護衛」っていってもあれから全然何もないし、だいたいお守りってあたしだって子供じゃないんだし。
 だいたい母さんがなんでこんなヤツを送ってきたのかが全然解らない。「碧き泉」と「朱き泉」の接点、雅樹がいないあいだ誰が「朱き泉」を護っているのか……ってあたしも人のことは言えないか。
 ……ホント、なんか周りのことばっかり見ててあたし、何も解ってない……。
 舞は雅樹へとフォーカスを合わせた。自転車にまたがって、雅樹の隣へと走る。
 聞くべきことを、訊くために。
 舞が横へと着けたとき、雅樹は立ち止まった。
「それどっかに止めてきた方がいいぞ」
「え?」
 一行は、駅へと着いていた。
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