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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (10)
「!」
 おハルさんは顔を上げ、少年は何かを感じた。
「止めてくれ」
 左の命令で車は脇に止められ、少年は、何かを読みとろうとしていた。左は黙ったままそれを見守る。
「意外と近くです。多分車両に積んでいます。この前のとは、だいぶ感じが違います」
「LWシリーズじゃないのか?」
「判りません。ただ、この前ほどの力を感じないことは確かです」
「……リシュネを出してみるか」
 少年は驚き、内ポケットから取り出した携帯をあわてて止めた。
「彼女はまだ早すぎます! テストならディルトを先にすれば!」
「ほんっとーに、そう思うのか?」
 左にじっと見つめられて、少年は、少ししゅんとなる。
「……ディルトは、今回のような市街地での戦闘には向きません……ですが、リシュネはまだ安定期に入っていません。僕とは違うんですから」
「AP化はリシュネが先だ」
「そりゃそうでしょう、彼女はセカンドバージョンなのですから! 僕は、彼女を実戦に投入することにも反対です」
「それじゃぁなんのために作ったんだか分からないな」
「だったら……っ」
 少年は、言えば言うほどいらついてきた。自分自信、この意見が不毛なことを知っていた。自分達の存在理由、なぜ今自分がここにいるのか――完全な自由など、得られるはずもないのに。
「ま、いっか」
 そう言って、少年へと笑んだ。
「え……」
「LWじゃないとすれば、危険は伴う。それに、全く違う存在かもしれない。それに……あの二人の力もちゃんと確かめておきたいしね」
 少年はぱぁっと顔を明るくした。
「じゃぁ、僕が行ってきます! あの二人にも死なれては困りますものね」
「ああ、もちろんだ……ま、そんなに急ぐ必要もないだろ? だったら車で行こう」
「……左さんも、行くんですか?」
 少年は運転手に道順を教えて、車は走り出した。普通、自分から「戦場」へと行きたいと思う指揮官はいない。しかも、別段そういうことに長けているとも思えない。この男に関しては、少年にも解らないことが多すぎた。
 この男は何者なのだろう。誰に訊いても知る者はいなかった。データを検索しても載ってはいなかった。自分から語ることもない。知り合いもいない、いるとしたらこの「おハルさん」だけだ。
 なんだかんだ言ってもこの人に頭が上がらないのは、何かを感じているからかもしれない。とはいえ、それは実際に感じられるものでないから、信じるに値しないはずなのに……。
「そうだ!」
 いきなり左はそう言って、少年へと笑みを向けた。
「俺は、どうしてもリシュネの状態が見たい。そこでだ、リシュネを君がサポートするのと言うのはどうかな?」
「逆ならいいです」
「逆というと?」
「リシュネがサポートです」
「うーん、ま、いっか。って言っても、とりあえず本人が納得すればだけどな」
 なぜこの男は「命令」しないのだろうか。必ず話し、相談し、そして決める。僕が反対すればその決断をあっさりと覆す。それは、僕に恐怖しているからか? 否、そう、感じる……。
 左は携帯を取りだし、楽しそうに番号を選んでいた。
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