高速を走り抜けるトラック。別になんでもない、ごく普通のトラック。
意外とこういう車にアヤシイ物を積んでいるんじゃないかと思う事はあっても、実際にそうだと確信することは、まああんまりない。
だが、そのトラックには、ちゃんとアヤシイ物が積まれていた。
トラックの助手席で、青年は例によって笑みを消すことなく、流れていく高速の灰色い壁を眺めていた。その脇で、運転手はできる限り冷静を装いながら運転をしていた。
青年は、視線を運転手の方へと向けた。
「君……」
その止まった時間に入る瞬間運転手の瞳孔が開くのを、青年は思わず声を出しそうなほどうれしそうに見ていた。
「……くれぐれも、事故は起こさないでくれよ。そんなことになったら、本当に大変なことになる、そう……」
その空白の間は、運転手は考える余裕があった。だったらしゃべるな! そう心の中で叫んでいた。
「……君に死んでもらわなければならないだろうしね」
その言葉に、青年は本当に事故を起こしそうになった。ぐらりと一瞬車が傾く。その角度はそれほどではなくても、運転手はまさに倒れそうな程だと感じた。
また元の状態に戻り、バネというバネが跳ねると、後ろの荷台から形容したくない音が発せられた。
「おいおい……」
その言葉の途切れは、青年の怒りが作らせた、そう感じた。実際に運転手はその顔を見たわけではないが、顔の左半分でその視線を受けていれば、正面向けて顔を見合わせられるものではなかった。
もちろん、心臓は高鳴り冷静さは失い、汗でハンドルは滑り、まっすぐ走ることでさえ精一杯の状況で、よそ見はそうできるものではなかった。
「もしここで放たれるなんてことになったら……」
運転手には、またか、と思う余裕はなかった。
「コントロールを失って、がぶりと食べられちゃうかもしれないぞ」
「た、食べられる!?」
思わず運転手はそう声を上げた。トラックの積み荷が怪しいものだとは知っていたし、生き物だということも知っていたが、それがどのような生き物かは知らなかったし、条約違反になる動物くらいにしか考えていなかった。
そんなことよりなにより、隣に座る青年の恐怖がそういったことまで頭を回らさせなかった。
「い、生き物ってどんなのなんすか?」
運転手は、恐怖を紛らわすこともあってそう青年に語りかけた。
「君……」
「は、はひぃ?」
その声は裏返っていた。このときの青年の沈黙は、これまでで一番長いと運転手は感じていた。
「……初めて話しかけてくれたね」
「!? はぁ……」
想像とはいちばんかけ離れた答え方に、運転手は拍子抜けした。
「動物なんだ、とっても高い、ね。でも、うちで作っているのもの中では安い方かな?」
「作ってるって、なんです?」
「ふふ? ……調子に乗ると結構おしゃべりになるんだね、君」
再び沸き上がった恐怖が、運転手の声を封印していた。
意外とこういう車にアヤシイ物を積んでいるんじゃないかと思う事はあっても、実際にそうだと確信することは、まああんまりない。
だが、そのトラックには、ちゃんとアヤシイ物が積まれていた。
トラックの助手席で、青年は例によって笑みを消すことなく、流れていく高速の灰色い壁を眺めていた。その脇で、運転手はできる限り冷静を装いながら運転をしていた。
青年は、視線を運転手の方へと向けた。
「君……」
その止まった時間に入る瞬間運転手の瞳孔が開くのを、青年は思わず声を出しそうなほどうれしそうに見ていた。
「……くれぐれも、事故は起こさないでくれよ。そんなことになったら、本当に大変なことになる、そう……」
その空白の間は、運転手は考える余裕があった。だったらしゃべるな! そう心の中で叫んでいた。
「……君に死んでもらわなければならないだろうしね」
その言葉に、青年は本当に事故を起こしそうになった。ぐらりと一瞬車が傾く。その角度はそれほどではなくても、運転手はまさに倒れそうな程だと感じた。
また元の状態に戻り、バネというバネが跳ねると、後ろの荷台から形容したくない音が発せられた。
「おいおい……」
その言葉の途切れは、青年の怒りが作らせた、そう感じた。実際に運転手はその顔を見たわけではないが、顔の左半分でその視線を受けていれば、正面向けて顔を見合わせられるものではなかった。
もちろん、心臓は高鳴り冷静さは失い、汗でハンドルは滑り、まっすぐ走ることでさえ精一杯の状況で、よそ見はそうできるものではなかった。
「もしここで放たれるなんてことになったら……」
運転手には、またか、と思う余裕はなかった。
「コントロールを失って、がぶりと食べられちゃうかもしれないぞ」
「た、食べられる!?」
思わず運転手はそう声を上げた。トラックの積み荷が怪しいものだとは知っていたし、生き物だということも知っていたが、それがどのような生き物かは知らなかったし、条約違反になる動物くらいにしか考えていなかった。
そんなことよりなにより、隣に座る青年の恐怖がそういったことまで頭を回らさせなかった。
「い、生き物ってどんなのなんすか?」
運転手は、恐怖を紛らわすこともあってそう青年に語りかけた。
「君……」
「は、はひぃ?」
その声は裏返っていた。このときの青年の沈黙は、これまでで一番長いと運転手は感じていた。
「……初めて話しかけてくれたね」
「!? はぁ……」
想像とはいちばんかけ離れた答え方に、運転手は拍子抜けした。
「動物なんだ、とっても高い、ね。でも、うちで作っているのもの中では安い方かな?」
「作ってるって、なんです?」
「ふふ? ……調子に乗ると結構おしゃべりになるんだね、君」
再び沸き上がった恐怖が、運転手の声を封印していた。