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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (12)
「で……ここはなんなのよ!」
 着いた先は、公園だった。いつも舞達が絵を描いているところよりも広いが、人はほとんどいなかった。町中にぽつんとある、木々に覆われじめじめとした、何かに忘れ去られたような場所だった。
「いつもの公園とは大違いよね」
「まさか、ピクニックとでも言うんじゃないでしょうね」
「ん?」
 と、雅樹はフライドチキンをほおばりながら振り向いた。
「電車代だってばかにならないんだけどなぁ」
 信吾のぼやきも、雅樹には聞こえてないようだった。舞の口は怒っていながらも、その瞳は雅樹を追っていた。雅樹はぐるりと周りを見回したあと、木々の影へと入っていく。
 舞はその後ろを付いて行き、俊雄も付いて行く。恭子と信吾はあまり乗り気ではなかったが、それでも付いて行った。
 木でできたベンチに、男が座っていた。新聞を高々と掲げていて、顔は見えない。すっと新聞がわずかながら降り、雅樹とその男の目があった。
「なんなんだ? そのガキどもは」
「社会科見学ってヤツさ」
「なムグ」
 信吾の口を抑えながら、恭子は愛想笑いを見せた。
「手短に頼む。実は時間がないんでな」
 その雅樹の言葉は誰も理解できなかったが、雅樹はある方向へと顎をしゃくり、舞は、その意味に気づいた。気づかれないようにバッグの中の水筒を確認する。
「で?」
「……」
 男は一度周りを確認してから、再び顔を覆った。高校生四人という状況は危険だと感じていたが、それでも、口は開いた。
「どっかの会社が、あんたのこと調べてる」
「どっかって、どんななんの会社」
「そこまではわからんが、まあひとつじゃあないらしい」
「なんだよそりゃ」
「そうそう、他に結白舞っていう女もターゲットらしい。知ってるか」
「いや、知らないな」
 一瞬のざわつきも、その雅樹の言葉が掻き消した。
「他には?」
「今日はこんなところだ。急ぐんだろ?」
「ああ……」
 すっと立ち上がり、舞の方を見る。舞も、雅樹の方を見る。水筒を手にして。
「……どうした?」
「あんたは俺のこと、記事にしないのか?」
「あんたに恨まれるようなことをするほど馬鹿じゃあない。ま、まだ俺は何も掴んじゃいない、それだけさ」
「じゃぁ、今日これから起こることを記事にしてくれ」
「え!?」
 舞は水筒の口を開け、雅樹は右手を目の前にかざした。
『水よ、我が心と供に!』
『橙炎連燃!』
 舞の体が水をまとい、雅樹の右手に火が灯った。
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