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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (13)
「ちっ……」
「何が見えたの?」
「あのガキがいるってよ。それと、男。他にも怪しいヤツが結構いるらしい……」
「そんなの……足りなすぎるわよ」
 後ろを見て、舞も舌打ちした。恭子達を守るために一人。やってくる何かを止めるために一人。あの少年とその他諸々の人達とで一人。もちろん、それが最低限度だ。
「……その子供とか、怪しい人ってどこにいるの?」
「そっちなら俺が行った方が」
「穂香さんのいるあんたじゃなきゃ、一人でみんなを護ることはできないでしょ」
「……俺が護るのは、おまえなんだけどな」
 雅樹の瞳は射るかのように舞に向けられ、その言葉が放たれれば――舞は顔を背けた。
「どこ!?」
「この公園の外、あっちにあの少年、こっちに怪しい男!」
 舞は駆け出していく。その姿を、男は新聞をくしゃくしゃにしながら呆然と見ていた。
「記事には、どっちかひとつしかできないんじゃないか?」
 そんな言葉すら、男には聞こえていなかった。宙に浮く、まるで天女の羽衣のような水を身にまとって走る舞から、目を離すことができなかった。自然と、男も駆け出していた。
「ふぅ……おまえら、離れるんじゃないぞ!」
 後ろを向いて、俊雄達に雅樹は言った。俊雄も、舞の背中を見続けていたが、雅樹の声に我を取り戻した。舞と雅樹を、俊雄は交互に見て、そして舞の方へと駆け出した瞬間!
「来るぞ!」
 緑色の葉を撒き散らしてそれは飛び出した。それは、それは――
「……何よ、なんなの?」
 それは高々と宙を舞ったあと、地面を踏み砕いて着地した。大きな目、異様に長い手、太い足、ある部分は白く整えられた毛が並び、ある部分は緑色の皮膚が見えている。その姿は、動物という範疇を超えていた。
「この前と、違う……」
 恭子は学校を襲った犬を思い出して、それとは全く違う存在に恐怖していた。あのときも、十分想像を超えていたが、目の前にいるそれは、これまでとは全く違う、得体の知れない存在だった。
「さて、小手調べと行きますか……」
 橙色の炎に煌めく右手を構え、振りかぶる。
「ひと!」
 手から継ぎ火したかのように小さい炎がその獣めがけて飛んでいく。そのスピードはそれほど速くなく、獣は泥を跳ね上げながら高々と飛んだ。
「ふたみぃ!」
 最初の一発とは比べものにならないほどの速度で橙色の炎が雅樹の手を放れていく。その二発の内一発は外れるが、残り一発の炎は狙い違わず獣に直撃した。
「よぉいつむぅ!!」
 緩やかな放物線を描いて落ちてくる獣へと三つの炎が放たれ、その体が地面に叩き付けられると同時に全て着弾した。
 声にならない鳴き声が公園中に響きわたり、木々の中に隠れていた鳥達が一斉にざわめきたった。
「ちょっと……残酷じゃありませんか」
 ん? という顔を俊雄に向けて、雅樹は笑んだ。
「そんな余裕、ないんじゃないのか?」
 その右手に再び橙色の炎が点った瞬間、三つの影が木々の中から飛び出した。
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