「……来る」
少女は、そう小高い丘を見上げて言った。短い金色の髪、青い瞳、隣で座る少年より少し高い背。白のシャツにタイトジーンズ。その表情は、冷たいと感じられるが、何らかの意志も感じられる。
「どうするの?」
少年ではなく左洋一の方を向いて、訊いた。
「リシュネはとりあえず、見てればいいよ」
洋一の代わりに、少年が答えた。
「……つまらない、それ」
一瞬屈み、バネのようにリシュネは飛び上がった。
「リシュネ!」
「ん!」
少年は心配そうに見上げ、洋一は満面の笑みをたたえていた。
丘の頂上に舞がたどり着いたとき、その目の前を人影が上っていった。
「何!?」
舞は、その飛んでいったリシュネから感じるものを頼りに、その影を追っていく。上を見上げ、後ろを振り返る。そこには息を切らせて走ってきた男がいた。
木々をわずかに揺らして、その男のすぐ隣にリシュネは降りた。なぜか、泥の地面が跳ね返らなかった。
「ひっ!?」
男は突然の存在に尻餅をついた。ゆっくりと、木々の中から常緑樹の葉が落ちてくる。リシュネは舞を見る。その瞳は、眺めているようにも見えれば、値踏みしているようにも見えれば、見下しているようにも見えた。
「あなたが、結白、舞」
「あたしも有名よねぇ」
体の周りにまとう水の流れを、右手に集中させる。その間も、舞は目の前の敵から目を離さない。一目で欧米人だと判る容姿。その青い瞳が、舞を見つめている。
「ダメだ」
リシュネはそういい放つと、隣にしゃがみ込む男の方へと向いた。
「驚かせて、ごめんね」
一瞬しゃがみ込み再び大きく飛び上がった。舞は頭上から攻められるという恐怖に駆られて身構えるが、リシュネは木々を越え、来た時の軌道にそって飛んでいき、洋一の前へと音もなく着地した。
舞は公園の端へと走り、下を見下ろした。木々が途切れ差し込む日差しがまぶしい中、泥の斜面の脇、柵の外に三人の人影を見つけていた。ひとりはリシュネ、ひとりはあの少年。だが、残りのもうひとり、眼鏡を掛けた男には見覚えがなかった。
「これはこれは初めまして、結白舞さん」
洋一は、うやうやしく礼をした。
「左洋一といいます。今後ともよろしく」
左、洋一――眼鏡と唇の笑みはその男の表情を隠し、不敵さを醸し出していた。舞は、洋一がこの三人の中で一番強いと感じた。だが、なぜか他のふたりと違い、特殊な力を感じさせなかった。
もうひとりいるという方にも、その力を感じなかった。よく考えれば、こっちの三人はだいたい場所が判っていたのだから、もうひとりの方を先に行っておけば良かった。
ま、今から思いついてもしょうがない。そのもうひとりの方はおいておいて、目の前の三人、特に初対面のふたりに注意を向けていた。
「リシュネ、どうしたんだ?」
少年は心配そうに訊ねた。
「あの人、強い……私じゃかなわないかもしれない、それだけよ」
「堅実なんだね」
「いやいや、それでいいよリシュネ」
そう洋一は肯定した。
少女は、そう小高い丘を見上げて言った。短い金色の髪、青い瞳、隣で座る少年より少し高い背。白のシャツにタイトジーンズ。その表情は、冷たいと感じられるが、何らかの意志も感じられる。
「どうするの?」
少年ではなく左洋一の方を向いて、訊いた。
「リシュネはとりあえず、見てればいいよ」
洋一の代わりに、少年が答えた。
「……つまらない、それ」
一瞬屈み、バネのようにリシュネは飛び上がった。
「リシュネ!」
「ん!」
少年は心配そうに見上げ、洋一は満面の笑みをたたえていた。
丘の頂上に舞がたどり着いたとき、その目の前を人影が上っていった。
「何!?」
舞は、その飛んでいったリシュネから感じるものを頼りに、その影を追っていく。上を見上げ、後ろを振り返る。そこには息を切らせて走ってきた男がいた。
木々をわずかに揺らして、その男のすぐ隣にリシュネは降りた。なぜか、泥の地面が跳ね返らなかった。
「ひっ!?」
男は突然の存在に尻餅をついた。ゆっくりと、木々の中から常緑樹の葉が落ちてくる。リシュネは舞を見る。その瞳は、眺めているようにも見えれば、値踏みしているようにも見えれば、見下しているようにも見えた。
「あなたが、結白、舞」
「あたしも有名よねぇ」
体の周りにまとう水の流れを、右手に集中させる。その間も、舞は目の前の敵から目を離さない。一目で欧米人だと判る容姿。その青い瞳が、舞を見つめている。
「ダメだ」
リシュネはそういい放つと、隣にしゃがみ込む男の方へと向いた。
「驚かせて、ごめんね」
一瞬しゃがみ込み再び大きく飛び上がった。舞は頭上から攻められるという恐怖に駆られて身構えるが、リシュネは木々を越え、来た時の軌道にそって飛んでいき、洋一の前へと音もなく着地した。
舞は公園の端へと走り、下を見下ろした。木々が途切れ差し込む日差しがまぶしい中、泥の斜面の脇、柵の外に三人の人影を見つけていた。ひとりはリシュネ、ひとりはあの少年。だが、残りのもうひとり、眼鏡を掛けた男には見覚えがなかった。
「これはこれは初めまして、結白舞さん」
洋一は、うやうやしく礼をした。
「左洋一といいます。今後ともよろしく」
左、洋一――眼鏡と唇の笑みはその男の表情を隠し、不敵さを醸し出していた。舞は、洋一がこの三人の中で一番強いと感じた。だが、なぜか他のふたりと違い、特殊な力を感じさせなかった。
もうひとりいるという方にも、その力を感じなかった。よく考えれば、こっちの三人はだいたい場所が判っていたのだから、もうひとりの方を先に行っておけば良かった。
ま、今から思いついてもしょうがない。そのもうひとりの方はおいておいて、目の前の三人、特に初対面のふたりに注意を向けていた。
「リシュネ、どうしたんだ?」
少年は心配そうに訊ねた。
「あの人、強い……私じゃかなわないかもしれない、それだけよ」
「堅実なんだね」
「いやいや、それでいいよリシュネ」
そう洋一は肯定した。