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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (15)
 はじめ、それらはすべて同じように見えていたが、よく見ればそれぞれ違う形をしていた。雅樹の上を飛び跳ねるもの以外にも、比較的鈍重なものや、最初に飛び込んできたときに着地に失敗してそのまま動かないものまでいる。見かけも、それぞれ大きく違っていた。
 だが、残りの二体は相当の早さで飛び回っていて、雅樹はかなり苦戦していた。
「ったくっ!」
 橙色の炎が無数に飛んでいく。が、残った二体は耐久力も相当のものらしく、一、二発当たっていても全く動きが衰えていなかった。その上、黄炎によるめくらましさえ効いていなかった。
「なんなのよー、もう」
 恭子と信吾はひとつ所に集まり、その脇で俊雄が立っていた。
「一発必中――行くか?」
 雅樹は二体のうち一体を選んで、右手を構えた。その右腕に青い炎が点った。続いて左手も構える。橙色の炎が点る。その左腕をゆっくりと振るうと、軌跡に小さな炎が三つほど残る。
「そこの三人!」
 数秒経つ。
「……? 僕達?」
「誰がいんだよ。残った一匹、そっちに行くかもしんないからな」
「一匹倒せたら、でしょ?」
「信じろって、俺を」
 不敵な笑みを浮かべて、雅樹は構え、精神集中を始める。俊雄は、なんであんな挑発的なことを言ったのだろうと自分でも驚きながら、後ろにいるふたりを必死にかばっていた。
 沈黙が、続いた。
「――橙炎!」
 ふたつの橙色の炎が同時に撃ち出される。一発が一体ずつに飛んでいき、二体は飛び上がった。
「焦炎――」
 振りかぶり――
「槍射!!」
 一瞬だった。俊雄はその軌跡を目で追えなかった。ガスレンジから吹き出すような蒼い炎の塊まりは雅樹の手から放たれ放物線も描かずに一体を炎で包み込んだ。
 蒼い炎で包まれた一体は、何か叫んだのかもしれない。だが、それ以上に燃え焦がすその音が公園中に響きわたった。一瞬宙を舞ったそれは、放物線を描きもせず、錯覚かと思わせるほどの滞空時間を要して落下した。落下したそれは、音も立てずに落ち、黒い消し炭が粉々になって風に舞って消えた。
 地面には、泥にこびりついた炭だけが残っていた。
 雅樹はもう一体を睨み付ける。この一瞬の攻防を、残りの一体は恐怖におびえた目で見ていた。今地面にいるそれは、怯えきって今にも逃げ出しそうだった。
 だが、それは逃げ出さなかった。雅樹から目を逸らした先には、三人の人間がいた。視線はそれに集中し始めていた。
「こっちに……来るっ」
 俊雄は身構え、最後の一体を睨み付ける。恭子と信吾は立ち上がろうとしていたが、すでに足がすくんで動けなかった。
「ラストワン、ってとこかな」
 ぽうと雅樹の右腕に蒼い炎が点る。三人の方へと足を進めようとしそのとき、雅樹は、声を聞いた。
「な……!!」
 後ろを振り向き走り出した雅樹の注意から、すでに三人は消えていた。
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