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風雅、舞い - 第二章 青年ふたり (17)
 恭子は、伏せていた目を少しずつ開けた。まず視界に入ったのは俊雄の背中と信吾の顔だった。少し顔を上げて遠くを見ると、そこにはつい先ほどまであった木々がごっそりと削り取られて、すぐ側で地面が終わっている光景があった。
 少し記憶を呼び戻す。確かあの化け物が飛び掛かってきて、木村君が護ってくれて、そのときすごい音がして、地面が揺れて……。
 恭子は俊雄の脇からひょいと覗いた。その先には、仰向けになって倒れている化け物がいた。それは、全く動いていなかった。上を見上げれば、自分自身信じられないといった表情をした俊雄が、左足を前に出した格好のまま硬直していた。
「木村君が……?」
「なんか……蹴ったら……当たった……」
 俊雄は恭子の方を向いて笑ったが、顔は引きつっていた。
「みんな!」
 公園の崩れた方を見れば、その切り立った崖から身軽そうに舞は飛び出してきた。三人の所まで来たときには、息も上がっていた。
「だ、大丈夫?」
「うん、木村君が……」
「なんとか、やっつけられたみたい」
「え?」
 舞は、急に崩れた公園の盛り土のことを言ったつもりが、ふたりの指さす先を見て、わけが分からなくなった。
「……どういうこと!?」
 崖崩れに飲み込まれた男を肩に抱えて、これまた軽々と崖を登ってきた雅樹を舞は睨み付けた。
「何って、穂香が銃を持った男がいるっていうから……」
 その言葉を舞は反すうする。そうだった、あの三人と対峙して、そのとき雅樹が――。
「だ、だからって木村君ほっぽいていいってことは、ないわよ……」
「そうよ、あたし達すごく怖かったんだから! ホントすごく!」
 恭子が舞を強烈にフォローするが、舞自信はなにもそこまでと思っていた。一応、助けてくれたわけだし……。
「そうだよ! 俺達のことほったらかしにして何考えてんだよ!」
 今まで放心状態だった信吾も、水を得た魚のように口を盛んに動かしていた。
「って、俺はおまえ達護るなんて言ってねーぞ」
 雅樹の声色が変わった。
「おまえ達が着いてくるのは勝手だ。自分の身くらい自分で護れ。俺は舞を護れればそれでいいんだ」
「あたしだけ……ってそれはないんじゃない? じゃぁ、木村君のことなんかどうでもいいっていうの!?」
「ああそうさ、俺はあんたの母さんから舞を護れって言われたんだ。おまえ以外の命なんざどうだっていいんだよ!」
 バチィイン!
 思いっきり顔をはたいてから、雅樹って意外と背が高いんだな、そう思った舞だった。
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