KAB-studio > 風雅、舞い > 第三章 きもち (3)
風雅、舞い - 第三章 きもち (3)
 朝九時半。そのジープは市街地を抜けて一本の長い道路へと入る。駅があり通学通勤途中の人々が群れるその向こうに、人気のない空間がある。鉄条網で周りを囲っている林と、高く灰色い壁とに挟まれた道は、カーキ色の威圧的なジープ以外には車両を見かけることはない。脇には歩道と呼べるようなものはなく、まさに、人の立ち入ってはならない場所を感じさせる。
 その一本道を果てしなく走り続けると、塀の一端が途切れる場所がある。ジープはほんの少しだけ減速し、そこへと入る。
 黄色と黒の遮断機が降りているのを見て、目が細く髪の短い骨張った顔の男は、露骨に不快な顔つきでブレーキを踏んだ。
「はい、パスお願いしまーす」
 と、前髪を金色に染めた青年は明るく楽しそうに手を差し出した。
「君……」
「はい?」
 笑顔と沈黙。
 さらに、笑顔と沈黙。
 とどめに、笑顔と沈黙。
「……初めてかい?」
「え、ええ」
 青年は「早くパス渡してくれよー」と思いながら、作り笑いを続けた。
「君は規則というもの……」
 男は作り笑いを引き続き維持して、沈黙を造り出した。
「そう……」
 その間、じっと青年の目を見続ける。青年は完全に気圧されながら、苦笑いを保っていた。
 その光景を見かけたひとりが全速力で駆け寄り、ジープの横で頭を下げて叫んだ。
辻様おはようございます!
「ん、おはよう」
 「辻」と呼ばれた男が笑顔を向ける相手を変えたことを確認してから、下げていた頭を上げ、見張り所へと登って青年を殴ったあとスイッチを叩いた。
「ありがとう」
 満面の笑みをたたえてそう応えた。そして、遮断機が上がりきらない内にジープは砂埃を上げてその場を去った。1秒後には建物の影でタイヤを鳴らしていた。
 男はがらがらの駐車場の中央にジープを止め、さっそうと歩いていく。その敷地内は、灰色い壁をした建物が軒を連ねていた。清潔感はあるが、冷たく、静かな雰囲気が辺りを占めていた。男が挨拶をするような相手すらいなかった。
 男は建物のひとつに入る。中には最新式の設備がうなりを上げていたが、それを見守る人間はいなかった。階段を上り、ひとつ上の階からその広々とした「工場」を見回す。
 そこは「倫理の掃き溜め」とでも言えるような場所だった。床に固定された機械から巨大な透明カプセルが出ている。その中に満たされた黄色い液体。そして、その海の中で静かに眠る、奇妙な形をした生物達。
 カプセルはその建物の中だけでも10を超えていた。中には形自体はまともなもの――巨大な虎や狼など――もあったが、そのほとんどは異形の生物だった。
 男は、それらの「子供達」を見下ろして、満面の笑みを浮かべた。カプセル群を見下ろしながら、男は渡り廊下の先、ドアの前へと来て、ノックをした。
「入りたまえ」
 そう返事を受ける前に、すでに男は中へと入っていた。
 検索