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風雅、舞い - 第三章 きもち (4)
 部屋の中には観葉植物と本棚、ソファそして事務用机があった。記号的な家具が並ぶ無機質な部屋の中で、車の中で会ったあの男が立っていた。
「石和さん……今日は、何の用ですか?」
 男はいつもの不敵な笑みを崩すことなく、そう言った。
「私は、ここを退くことになったよ」
 その石和と呼ばれた男の発言は、わずかながら男の表情を変えた。
「で、後任には?」
 ずけずけと訊いてくる男の態度に苦笑いを浮かべながらも、石和は頼もしく思った。
「知らんよ。が……」
 石和は、男のまねをして少し間を置いてみた。
「ここは、潰されるだろうな」
「そうなればLWシリーズ……」
 男の背後から、機械の作動音が聞こえた。
「君次第、というところだな」
 男は、驚きの顔を見せた。
「どういう、意味ですか?」
 石和はその声音が、この辻という男の素のもののように感じられて、少しうれしかった。
「私も、左や上の奴らを見返してやりたいのさ。君はこの前、その銃を左に向けたのだろう?」
「殺すことは、できませんでしたがね」
 そう言って、男は腰の後ろで構えたシグにセーフティーを掛けて服の中に隠した。
「確かに彼は、多くのものを提供してくれた。我々の知らない情報、海底から拾ってきたあのサンプル、LWシリーズの実現……」
「ですが、左は無理矢理方向転換、APシリーズの開発に着手。あの……」
 男のその笑みは、石和にも鳥肌を立たせるものだった。
「……ガラクタ人形を勝手に作り、勝手に資料とサンプル他我々の大事なソースを持ち出した悪人です……悪人には、それ相応の罰が必要です」
「裁判に掛けられない以上、な」
 石和は部屋の脇にある窓から、工場を覗いた。
「しかし、LWシリーズは我々の手に余るものになりつつある」
「すべて左が持ち出したせいだ」
「せめてあのサンプル、ミナクート・フィサーンだけでもあればな。設計図がなければどうにもならん」
「それが、当面の目的ですね」
「だが……」
 石和は男の方を向いた。血気盛んなその青年は、危なっかしくもあるが、頼もしくもある。
「まずは、我々が動けるような状況を作らなければならない……ですね」
「そうだ。しばらくは我慢してもらうが、そのあとは……」
「解っています。政治的なことはすべてお任せいたします。私は……ふふ……」
 男の笑みは、最高潮に達していた。
「……左を殺せれば、それで十分なのですから」
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