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風雅、舞い - 第三章 きもち (11)
「もういいでしょう、舞さん」
 そう言って、俊雄は立ち上がった。舞はそれを上目遣いに見上げるだけだった。
「この嬢ちゃんはそんな気ないみたいだが?」
「だって、舞さん気づきませんか? 歳、つじつまが合わないじゃないですか」
「雅樹は不老不死だもの。そう言ってた」
 舞はそうぽつりと言った。
「そんな、そんなことあり得るわけが」
「実際に見せられりゃ、信じられるさ。信じたくないとしても、な」
 誠十郎のその言葉で、俊雄は再び座った。
「あの日のこと、あれからのこと……断片としか覚えてない。銃の音、あいつの体から吹き出す血、それでも満面の笑みを浮かべて、親父をまさに一刀両断にした力、上がる悲鳴……もう、家は血の海だよ」
 たばこをもみ消したその手は、震えていたのかもしれない。
「父親を殺されたのに、朴さんとまだ会っているんですか?」
「俺が会いに行くんじゃない。あいつが勝手に呼びつけるだけだ。会おうなんて気、これっぽっちも起きやしねぇよ……」
 うつむいた誠十郎の目は、俊雄の目から見ても、怯えているように見えた。
「ま、俺が教えられることといやぁ、これくらいなもんだ。実際、俺はあいつのことを何も知らない。なぜ、あんなに丸くなったのかもな。知りたいとも思わんが」
「いえ、他にも教えて欲しいことがあるんです」
 舞は両手を上げて、のびをした。
「今回の件のこと。私たちを襲ったのは誰なのか、どんな組織なのか。そういう情報を教えて欲しいんです」
 俊雄は、そう言う舞を横目に見て、ほっとして、同時に感心した。
「いや、そいつは駄目だな。少なくとも、これで食ってるんだ」
「もちろんそのお礼に、私の情報を教えて差し上げますから」
 その言葉を聞いて、誠十郎の目は光り、俊雄はあわてた。舞はまだ両腕を上げたままだったが、その間に挟まれた表情は、余裕と自信に満ちていた。三十秒前とは全く違う表情だった。
「名前は結白舞。ごくごく普通の女子高生。他には?」
「……あんたも、雅樹と同じなのか?」
「雅樹も私も、<泉の洗礼>を受けたから、そういう力が宿ったの。私は水を操る力、雅樹は炎を操る力。でも……」
 舞は、両腕を降ろした。
「私には不老不死なんてものは備わってないわ。不死ははっきりと試したことはないけど――試したくはないけどね――不老が備わってないのは確実。洗礼を受けたのは、私が六歳の時だったから」
「……洗礼のこと、もう少し教えてもらえないか」
 俊雄は、好奇心に負けて、すでに止めようとは思わないようになっていた。
「泉の洗礼。世界のことは分からないけど、日本には四つの泉があって、その内のひとつ、碧き泉をうちの家系が代々受け継いできたの。泉が本当はなんなのか、なぜ存在するのかは解らないけどね。ただ……」
 と言って、少し恥ずかしそうに笑った。
「その四つの泉の力を受け継いだ者は、来年の春頃に現れる闇っていうのを撃ち破る力がある、そう言われているけどね」
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