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風雅、舞い - 第三章 きもち (12)
「その闇とやらがなんなのかも、私達がどういう理由で勝てるのかも判らないけど、とりあえずそんなものよりも、あの化け物と一緒にいる少年少女、が当面の問題かな」
 と、舞はできるだけ自然な感じで話題を振った。
「この前の時のことは憶えているな? 敵は二グループいた」
「舞さんを撃とうとした方と、子供達の方と」
「んとだな……」
 と、誠十郎は手帳を取り出してめくった。
「ひとつはだな、この前のトラックから割り出そうとしたんだが……まだ判ってないな。もうひとつの方は情報がかなりあったもんでな……これだ」
 誠十郎はにやりと笑った。
「ファインダウト社。外資系企業、海外から電子部品や化学薬品を輸入している会社らしい」
「普通の会社ですか?」
「いや、かなりやばそうな……解りやすく説明すれば、とても棘のある、周りを寄せ付けない雰囲気の企業だな。やってるこた、普通といえば普通だが」
「ん……解りました。今日はありがとうございます」
 と、舞は唐突に立ち上がって、礼をした。俊雄と誠十郎はいきなりで驚いていた。気づけば、外はもう真っ暗だった。
「また今度、お願いしますね」
 そう、体をくの字に曲げたまま、顔を上げてそうにっこり言った。
「あ、ああ……」
「じゃ。木村君、行こ?」
 舞はそう言って、バッグとレシートを持って出口へと歩いていった。あっけにとられていた俊雄も、そのあとを追おうとした。
「おい」
 席を離れようとした俊雄を、誠十郎は引き留めた。怪訝そうな顔を向けるが、誠十郎の表情は真面目だった。
「おまえ、あいつに惚れてるのか?」
「そ、それは……」
「あいつには関わるんじゃない」
 誠十郎の口調は強かった。真剣な警告だった。
「俺は、彼女にあいつと同じものを感じた。俺が今日、おとなしく話してやったのは……」
 その表情は、まさに苦々しそうに見えた。
「怖かったからだ。朴と同じ、とてつもない力を持っているからだ」
 その言葉を聞いて、俊雄はふっと会計を済ませている舞を見て。そして、優しく笑んだ。
「いえ」
 誠十郎は顔を上げた。
「舞さんは、ごくごく普通の女の子ですよ」
 そう言って、俊雄はその場を立ち去った。ふたりの後ろ姿を見ながら、誠十郎は、判っちゃいないなぁと思いながらも、うらやましいとも感じていた。
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