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風雅、舞い - 第三章 きもち (15)
 公園のブランコを、舞は不思議な気分で漕いだ。自分の過去には、その姿はない。泉には、ブランコどころかテレビすらなかった。そんな環境から抜け出たのに、今また、その力を使わなければならない。
 こんな力、ない方がいい、そう思うのに、電話ボックスの中で話す少年は、舞の力になりたいと言った。その気持ちに応えたい、そうも思う。
 空は完全に闇に包まれ、公園の隅に立つ街灯が、舞の横顔を照らし出す。電話ボックスの明かりに包まれた俊雄を見れば、スポットライトに立つふたり。俊雄はスポットライトから離れ、再び舞の目の前でライトを浴びた。その顔に、澄んだ笑顔が浮かんでいた。
「舞さんは電話しなくていいの?」
「うん。お父さんはまだ帰ってきてないだろうし。それに、あたしだってそんなに柔じゃないんだから」
 ふと、俊雄は誠十郎の言葉を思い出した。が、目の前でブランコに座る舞を見れば、そのような言葉は吹き飛んでいく。たとえ、戦う舞の姿を何度となく見ているとしても。
「そうだよね、舞さんにはその力があるんだものね」
「望んだことじゃないけどね」
「……」
 舞は遠い目をして、語る。
「私は、何もかも嫌い。この力も、力を使わなきゃならない環境も。銃とかさ、持ってたって、使わなくちゃいけないなんて、やだよ」
「でも、力があるからこそ、できることもあるよね……僕にも力があれば、舞さんを助けることができる。……本当……」
 舞は、見上げる先の俊雄の顔を見た。その真摯な表情を、舞は見つめて、言葉を待った。
「……本当、できれば、できることなら、舞さんの運命を肩代わりしたい」
「そんなことされたら、今度はあたしの方が、俊雄の肩代わりをしたくなっちゃうかもよ」
 そう、舞は苦笑いを浮かべて、言った。
「え……」
 俊雄は、顔を赤らめながら、その言葉を頭の中で繰り返していた。そして、それが俊雄に勇気を与えた。
「ねえ、舞さん……」
「ん?」
 手は汗ばみ、心臓は高鳴る。永遠の空間が造り出す緊張は、試合では経験したことのないものだった。いや、俊雄の人生の中で、初めてといっていい瞬間だった。
「こんな時に言うのもなんかって思うだろうけど……僕と、僕と付き合ってくれないかな」
「……へ?」
 その気の抜けた反応に、俊雄は動揺を隠しきれなかった。
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