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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (1)
「ん? リシュネも来たのか」
 車内からささやかに笑って応えるリシュネ。洋一はそれに笑顔で応えて車内へと入った。車は走り出し、病院内のロータリーを抜け出る。
「いないあいだ、なにか変わったことはなかったかい?」
 そう言って、隣に座るリシュネと、前部座席から乗り出す少年を見る。
「なんにもないよ。って言うより、左さんがいないことをいいことに、先生テストばっかりするんだもの。外に出る暇もなくて」
「ははは、彼女らしいな。けど、これから君たちにはどんどん働いてもらわなくちゃならないから、そのために一生懸命だったんだろう」
「その仕事って、なんです?」
 リシュネが訊いた瞬間、緊張が走った。それを見て取って、洋一は笑った。
「別に言えないことでも、<選ばれし者>だけに言えることでもないよ」
「そ、そうですか」
 少年は、こういう相手の先手を取ってからかう洋一の笑みが、嫌いだった。
「じゃぁ、逆に質問してみようか。君達は、なんで天地社が<泉の力を受け継ぐもの>を襲うのか知ってるかい?」
「APやLWにうち勝つ存在だから」
「ミナクートの代わりにしようとしているから」
 洋一は首を振った。
「違うよ、そんな理由じゃない。もっとも、舞たちのことをよく知らないのだから、それは当然だとは思うけどね」
「自分で教えないでおいて、よく言うよ……」
「確かに……」
 洋一は苦笑いを浮かべて、気を取り直した。
「今、泉に異変が起きつつある。そして、来年春、この日本に闇が訪れる……」
「かなりうさんくさい話ですね」
「でも、洋一の言うことにウソはないでしょ?」
 リシュネのフォローに少年はふてくされる。
「その闇に勝てる者たち、それが、<泉の力を受け継ぐもの>というわけだ」
「まるでファンタジーの世界みたい。なんか現実味がない」
「それだ……」
 少年は、気付いた。
「そんなファンタジーみたいな舞台こそ、僕達のデビューにふさわしくない?」
「私たちじゃなくて、LWシリーズでしょ」
「そういうことだ。そのために、天地社は作られたんだからな」
「でも、僕達だってそうなんでしょ?」
「君達は、兵器じゃない」
 洋一は、ふたりを見て、力強く言った。
「五人のAPには、ケンカなんてくだらない理由のためになってもらったんじゃない。当面は……」
 洋一はにっこりと笑った。
「まず、仲良くなってもらおうかな」
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