「ったく〜、なんでふったりなんかしたのよ〜」
　頭を抱えて苦しむ恭子を前に、舞は苦笑いをするしかなかった。
　校庭を見下ろせば、グランドを駆ける俊雄をすぐ見つけることができる。ひときわ高い背と、たなびくことのない短い髪が俊雄を目立たせていた。
　別に、舞にだけ判る印があるわけではなかった。
「別にふりたくてふったわけじゃないんだけどねー。成り行きだもの……」
　舞たちの高校は、明日から期末試験一週間前。中間試験の時には美術部の中で勉強会を開いていたのだが、今回はサッカー部に入り浸って美術部には顔も出さないでいた。
「木村君、勉強教えるのうまいんだよね」
「でもさ、どっちにしろ木村君はサッカー部戻ってたんだから」
「じゃぁ、明日から勉強教えてくれるかな」
「はは……」
　放課後の誰もいない教室で、恭子と舞は語っていた。教科書だけは開いていたが、勉強は遅々として進まなかった。
「信吾は図書室行っちゃったし。なんかさー、やる気わかないよね」
「ほんと、こんなはずじゃ……」
　舞の右手が、教科書を握りしめた。
「こんなはずじゃ、ないのに……」
「木村君ふっちゃったこと？」
「ちがうって」
「……なんか訊き辛かったんだけどさ、舞は、あの人のどこがいいわけ？」
　舞は天井を見上げた。跳ね上がる前髪が、空へと向いた。
「同類……かな」
「同類？」
「そう。なにか、近いもの、感じられるかな。今まで、そういう知り合い、いなかったし」
「え、そうなの？　だって、その泉って四つあるんでしょ？」
「全然交流なんてないもの。母さんは雅樹のこと、なんで知ってたのかなぁ。私は、他の泉がどこにあるかさえも知らないのに」
「そんなもんなんだ……」
　恭子は、軽く聞き流しながらも、次の質問をした。
「でもさ、勇者ってその四つの泉からひとりずつ選ばれるんでしょ？」
「よく憶えてるね……」
「なんとなく、ね」
「でもさ、その勇者って言うのも、思いっきり現実味ないんだよね。あの子供達とか、そういうのとは全然関係なさそうだし」
「あの犬とか猿とか、そういうのってなんか、敵、っぽくない？　っていうより、怪物って言うか、モンスターってゆーか」
「そんなのどっから出てくるの。だいたい……」
　舞は澄み渡った空を見上げた。
「あの雰囲気じゃ、怪物を操ってるヤツがいる。てことは、結局人と戦わなくちゃいけないってことだもの」
「そう言えばそうね。なんかそういうのってグログロしてて嫌だね」
「……人は、あんまり殺したくないな」
「……ふうん」
　恭子は、その「あんまり」という言葉に、雅樹との、舞の言う＜共通点＞らしきものを感じたような気がした。