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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (5)
「田中行雄といいます。よろしく」
 青年は握手をしながら、目の前の男に満面の笑みを見せた。行雄は、硝煙の臭いを感じた。
「では辻君、中を案内してくれないかね」
 石和はそう言って、中にいる人間を押し出そうとした。石和を除いて、その部屋にいるのは皆二十代から三十代前半という若さだった。その刃を剥き出しにした笑顔に、石和は目も眩むような思いだった。
「判りました。では……」
 手を離し、ドアを開けて工場の中へと勧めた。
「……じっくりとご覧あれ」
 行雄は、唾を飲んだことを悟られなかったか不安に思った。自分のような人間が、なぜこのような所へ……という思いもあるが、しかし、ここを乗り越えればひとつ上の椅子が待っている。
「では、見せてもらいましょう」
 眼鏡を上げてから、行雄は部屋を出ていく。SPと部下がそれに付いていく。
 入るときに一度見たとはいえ、その光景は行雄の神経にとって限界近いものだった。液体の中に眠る巨大な獣。行雄には、恐怖しか感じられなかった。
「こちらです」
 気付けば青年は通路の先にいた。三人はその後ろを付いていく。渡り廊下を抜け、隣の工場へと入る。緊張感が増していく中、青年は笑みを消す事がなかった。
 着いた先は、ひときわ大きい工場だった。
「ご覧ください。これが……」
 邪悪な笑みを浮かべて、青年は言った。
「……LIVE WEAPON−97です」
「……これが?」
 行雄は柵から身を乗り出し、下に見える無数の培養ポッドを観察した。
 広大な空間に、途方に暮れるほどの数のカプセルが置かれている。最大でも高さは二メートルほど、直径も1メートルほどしかない。その中には内蔵の一部と思われる臓器が、無数の泡に包まれ浮いていた。まるで理科室の標本群だった。
「これは、LW−97のパーツです。これらを組み立てることで……」
「あのおぞましい生き物になるというのか……」
 行雄は鳥肌を感じていたが、その中には快感を含んだ危険な香りも混じっていた。カプセルのひとつには、指が入っていた。そのカプセルが、中身の入っているものの中ではいちばん大きなものだった。行雄は体を起こして工場の端へと視線を向ける。そこには、中身の入っていない巨大なカプセルがあった。
「確かにこれは、とんでもないな……」
 眼鏡の奥の瞳が、ぎらついた。なるほど、これほどまでに形になっているのなら、上がざわつくのもムリはない。
 行雄は青年へと向き直り、言った。
「次は、どのようなものを見せてもらえるのかな?」
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