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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (8)
 工場の中は活気づき、クレーンがカプセルを動かしていく。いくつかの生体部品はすでに取り付けられ、より大きいカプセルの中で浮いていた。
「いやはや、壮観ですね」
 乗り出すようにして、行雄はその工場の中を見渡していた。まるで自分で組み上げたNゲージを見るように、その瞳は爛々と輝いていた。
「いや、君が人を集めてくれたからこそ、できたことだ」
 横に並ぶ石和が、温和な顔でそう言った。
「それにしても、なぜ、これほどの協力を?」
「いや、これほどのものを見せつけられれば、誰だって心が躍るものですよ」
「確かに……」
 石和は内心、ほくそ笑んでいた。まるで子供だな、しかしこれはいいように利用できる。辻に使われっぱなし、というのも情けないからな。
「ではそのお礼に、いいものを……」
 その、青年が行雄の背後から言う。
「……とびきり上等なものをお見せしましょう」
 振り向いた行雄の目はさらに輝いていた。すでに工場内を歩き回っていた行雄は、入れない場所があることをすでに知っていた。
「こちらへ」
 青年は歩き出し、行雄はその少し後ろを付いて行く。石和は早歩きをして青年の隣に並んだ。
「まさか、彼を? 危険過ぎる」
「確かに、今のままでは。ですが……」
 その含み笑いに、石和は驚きを隠せなかった。
「まさか……」
「決着を、つけなければなりませんからね」
 ふたりは立ち止まる。行雄はその少し後ろで立ち止まった。青年はポケットからカードを取り出し、カードリーダーへと掛ける。扉が、電子音とともにゆっくりと開いていく。
「ご覧あれ、これがLW−111……」
「……これが?」
 それほど大きくない部屋の中に、それほど大きくないカプセルが置いてあった。その中には、たった一本の手が、人の前腕が入っていた。
「……の実験体です」
「実験体?」
「はい……」
 青年は後ろ手に扉を閉めた。その薄暗い部屋の中で青年の瞳が不気味に光る。行雄はホラービデオのオープニングを見るようにこれから起こるであろう恐怖に喜びを感じていたが、石和は死と隣り合わせの恐怖に震えるほどだった。
 このような場面に出くわす度に石和は、なぜこの男と一緒にいるのだろう、なぜ自分はこの男といることを望んでいるのだろうと自問自答するのだった。
「明日、LW−97によるAPへの攻撃を行います」
「AP?」
「悪いヤツがいましてね、実験の途中段階で技術を盗まれたんです。それによって産まれたのがAP、Advanced Personです。その右腕は実験段階で作られたものなのです」
「これも、あの怪物のようにとてつもない……とてつもない!?」
 それが人間の右腕だということを再認識して、行雄は驚愕した。
「そうです。LW−111の完成形は、人間に非常に近い存在です。APのデータさえ得られれば、いつでも造れるはずです」
「人間が、驚異的な力を得る日……ヒッ!?」
 カプセルの方を向いた行雄の肩を青年が叩いた。驚き声の出ない行雄の耳元で、青年がささやいた。
「力……欲しくないかい?」
 カプセルに映った青年の顔は、悪魔そのものだと行雄は感じた。
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