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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (9)
 闇夜の空を飛ぶ飛行機。巨大な軍用機は雲の上を静かに飛行する。窓からの光景を智子はカクテルを飲みながら楽しんでいた。
「こんな贅沢ができるのも、プロジェクトに参加したおかげですね」
「後悔はしてないのかい?」
 振り向いた視界の中に洋一の姿がある。豪華ホテルの一室のようなその部屋の中で、ソファに深く座り、膝の上で寝るおはるさんをなでていた。
「院にいた時には部屋は汚い、上も下も何も解ってない人ばかり、おまけに給料も少ない。それに比べればまさに天と地ですね」
「犯罪に手を染めても?」
「辻さんはともかく、左さんは、信じられますから」
「俺を信じるなんて自殺行為だよぉ?」
 そう言って洋一は笑んだ。智子はそんな洋一を艶っぽい目で見る。僅かな期待を乗せて。
 膝の上におはるさんが寝ている間は、決して望みがないことを知りながら。
「予定通り、明日はディルトだけに戦闘を行わせる」
「戦闘能力は安定しています。ですが、勝ってしまいませんか?」
「それならそれで構わないさ。<泉の力を受け継ぐもの>には、ただ必要な時間必要な場所に居てくれさえすれば構わないんだから」
「友好度は下がってしまうんでしょうけどね」
「ま、あのふたりはそんなに弱くないさ」
「そうですか? APにかなう相手なんていないように思えますけど」
「それは過信というものだよ?」
 一瞬、智子は睨まれたような気がして鳥肌が立った。が、洋一は笑みを浮かべていた。気のせいだったのだろうか……。
「生産性ではLWシリーズの方がずっと上だ。軍隊でも相手にしようものなら相当な覚悟が必要だ。それに、<泉の力を受け継ぐもの>の成長度は無限と言っていい」
「APを超えると? まさか」
「APはミナクートを超えられない。だが<泉の力を受け継ぐもの>は超える可能性を持ってる」
「まさか……」
「かつて、龍達はミナクートが管理していた。管理者を失ってから、龍は人に自らの力を分け与えた」
「それが<泉の力を受け継ぐもの>……」
 智子にも初耳の情報だった。
「と言っても、僕自身どれほどの力があるのか量りかねてるところだけどね。それはAPもそうだ」
「確かにそうですね……」
 先日の怪我で洋一を検診しているにも関わらず、少年が考えるように、目の前の男が人間ではないのではないかと思う事がある。驚異的な力を持つというミナクート「フィサーン」の骸を海底から引き上げたとき、なぜその場所を正確に知っていたのか。また、洋一は科学も医療も知らないが、ミナクートの研究において無数のヒントを与えてくれた。
「……ふふ、君は今、僕が何者なのだろうって考えてるんじゃないかい?」
「えっ……あ、はい……」
「でも、教えるためにはまず、僕に選ばれなくちゃダメだね。ディルトやリシュネのように」
 そういうことをさらりと言う洋一を、畏怖と尊敬と憧れの混じった目で眺めながら、残りのカクテルをあおった。
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