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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (11)
 マンションの前で雅樹は待っていた。
「よっ。行くか?」
 舞は静かにうなずいた。
 平日の電車は、空いていた。見慣れない風景が流れていくのを見て、自分は異世界へと行くのではないかと感じた。子供が遠くで笑っている。ひとり分の席を空けて隣に座る雅樹は、口を開こうとはしなかった。
「どうしたの? 黙ってて……」
「……」
 雅樹は寝ていた。
 こいつは……と思いながらも、舞は自分も寝ることにした。暖かい日差しは眠気を誘う。おまけに昨日はよく眠れなかった。穂香さんがもし存在するのなら、駅に近づいたところで雅樹を起こしてくれるはずだと考えた。
 いないと思いながらも頼る自分を変なヤツだと思いながら、舞はまどろんだ。
「……舞」
 肩を揺すられて舞は起きた。あくびをしながら雅樹のあとをついていく。駅を出て、しばらく歩けば、前に来た公園へと出る。
 リシュネという少女が蹴り崩した部分はそのままになっていて、周りにロープが張られ、「危険」と書かれた紙が貼られていた。
 クラクションが鳴る。振り向けば、そこには大きめのバンがあった。運転席から顔を出す男を、舞はしっている顔だと気付いた。
「怪我、治ったんだ……」
 洋一はわざわざ運転席から出て、後ろの扉を開いた。
「ここから場所を移したいんだが、どうかな?」
 舞は雅樹を見、雅樹は穂香(がいるであろう場所)を見、それから舞を見て言う。
「大丈夫だろ、多分」
「まぁ、虎穴にいらずんばって言うし……え??」
 乗り込もうとしたとき、目に入ったふたり。後ろ側の席に少年とリシュネが座っていた。ふたりは「マジかよ」と言いたげな目で洋一を見た。
「僕がふたりの面倒を見ている。僕が何かされない限り何もしないだろうし、もししたとしても君達はすぐ後ろにいるこの僕をいつでも殺せるってわけさ」
「そういう問題じゃないんだけど……」
 舞はふたりを見た。少年は前に出遭ったときと同じ自信満々の笑みを浮かべていた。リシュネも同じように、すました表情を見せていた。
 ふしぎと、リシュネから受ける雰囲気はそれほど悪くないと感じた。だから、舞は乗り込んだ。それなりにゆったりとした空間で、四人は向かい合って座った。
「では、行くとしますか」
 洋一の運転で車は走り出す。舞は何か話した方がいいのか、何を話せばいいのか迷っていた。できれば目の前の少女が話しかけてくれれば、なんていう他力本願な思いを持っていた。
「ああん?」
 唐突に上がる雅樹の声。雅樹は窓の外を向いていたが、普通に聞こえる声で穂香と話していた。少年とリシュネは何事かという目を向け、舞は苦笑いさえ浮かばなかった。
「ん、解った」
 そう言ってから、雅樹はふたりの方へと向き、にっこりと笑った。何度目かの「穂香の紹介シーン」を見せられるのかと思うと、舞は涙さえ出そうになった。
 こんな緊張した状態だっていうのに……。
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