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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (12)
 車から出て空を見上げると、どんよりと曇っていた。少し水分を含んだ土から所々草が生えている、そういう地面が広がっていた。その周りを、高い木々が囲んでいる。舞は奇妙な閉塞感を感じた。
 ふと、遠くに池のようなものの存在を見つけたとき、もう一台の車が止まった。その車はボディだけでなく窓も真っ黒に塗りつぶされ、中の見えない状態になっていた。
「さてと、何をするんだい?」
「まずは、君達の強さがどれほどのものか、それを教えてもらいたい。話し合いはそれからだ」
 洋一はそう言い、もうひとつの車へと合図する。智子が後ろの扉を開き、中で何かを準備した。
「それって、結構乱暴なやり方じゃない?」
「安心していいよ、あくまでテストだから」
「つまり、そちらは絶対の自信を持っているってわけだな」
「ねぇ、あなた達が相手をするんじゃないの?」
 舞の問いかけに少年は首を振った。
「君達の相手は僕でもリシュネでもないよ。僕らより弱い、たったひとつの存在、それがテストの相手」
「なめられたもんね」
「んでも、あいつらが一斉に攻めてきたら、俺達だけじゃかなりきついな」
「それって、どっちにしろやばいんじゃない」
「ま、友好的なことはホントらしいな。絶対的な自信を持ってることも」
 雅樹も池の方を見る。また、地面が乾いた土だということも、炎を使いやすい場だと言える。
「紹介するよ」
 洋一の言葉に反応してふたりは黒い車を見る。智子の背後から現れたその青年は、猫背で痩せこけて、見た目には強そうに見えなかった。
「ディルト。退役軍人、戦闘のプロだ。甘く見ない方がいいよ」
「見かけで判断するなってのはそのふたりを見てりゃ分かるよ」
 すでに少年はディレクターズチェアに腰掛け、リシュネは自分の乗ってきたバンの上に座っていた。
「観客気分……か」
「穂香の評価じゃ、あいつとんでもないらしいぞ」
「とんでもないって?」
「殺気ってヤツさ。あのふたりと違って、攻撃意識が強く出てる。そのおかげで色々判るんだとさ」
 ディルトは白いボディスーツを着ていた。その所々に樹脂製のプロテクターを身につけていたが、それらは運動性を削ぐようなものではなかった。
「!!」
 風が舞いディルトが跳ね雅樹は炎を点し舞は身構える。ふたりが完全な攻撃態勢に入る前にディルトは至近距離まで近づき、そして止まった。
「ッ……」
 舞は驚愕していた。あまりにも素早い動きだった。雅樹は冷や汗を感じていたが、ある程度の余裕は持っていた。
「心の用意はいいかい?」
 洋一の言葉は、死刑宣告に聞こえた。
「では――――始め」
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