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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (13)
 ディルトは空高く跳び上がり、言葉を発する。
「我らを護りし者、その力を……」
 リシュネはディルトを見上げながら、つぶやく。
「あ〜あ、本当に殺っちゃうんじゃ……え?」
「光をっ、!?」
 地面から無数の火線が引かれる。そのスピードはディルトから見ても速いと感じられるものだった。それらをひとつひとつ躱していく。瞬間、すべての炎が爆発し、ディルトを炎の中へと閉じこめた。
「こんな……馬鹿なっ」
 炎と爆風の威力は無視できないほどだった。ディルトは叫び声を上げ、炎を吹き飛ばす。
「……っ、キィッ!!」
 ディルトはパニックに陥っていた。斜め下から高速で飛来する水の柱、と言うよりは矢か槍のようなそれらを見えない盾のようなもので弾いていく。が、すべてを弾ききれず数本がディルトの体をかすめた。空中に血が舞う。
「ガァッ!!」
 さらに飛来する水槍を手と足で無理矢理弾いていく。確かにそれは成功したが、手と足に傷が生まれ、さらに血が舞った。
「敗因はふたつ。分かるかい?」
 洋一が少年とリシュネに訊く。
「ディルトが遠距離戦を挑んだから。あれほどの連続攻撃じゃ、私達の方法じゃかなわない」
「それだね。ディルトはあのふたりと戦ってはいない。いや、僕達だって、あれほどまでにあのふたりが強いとは知らなかった。情報不足も敗因だね」
「いいかい」
 その言葉は、まるで深海へと引き込むような深く重く聞こえ、少年とリシュネは洋一へと真摯な表情を向けた。
「今日はディルトにやられ役を引き受けてもらったが、本番で君達があの立場になる可能性は十分ある。勝負は時の運、十戦を十勝したいのなら、相手を甘く見るんじゃぁないぞ」
「はい」
 リシュネは応えたが、少年は応えなかった。
 ディルトはすぐ近くに来るまで蒼い炎に気付かなかった。水の槍を躱しながらその炎を左手で叩いたとき、左手は瞬時に消し飛んだ。蒸発した、というのがもっとも適切な表現だった。
「……」
 痛みを抑えることすらできなかった。混乱の極みだった。戦意を喪失しかけていた。陽の光が陰ったことに気付くまでの時間も、ディルトにとってはあまりにも長い。気付き、見上げたとき、頭上で龍が巨大な顎を広げているのが見えた。
 ディルトは、死を覚悟した。
「そこまで!!」
 両顎が勢いよく閉じ、直径三メートルはあろうかという胴体がディルトがいた場所を突き抜けていく。全長では50メートルほどの龍が抜けたあとに、濡れてすらいないディルトが驚愕した表情を見せていた。
「ふぅ、危ない危ない」
 汗びっしょりになりながら、舞は呼吸を整えつつ水龍を池へと導く。自分自身、ディルトを殺さなくてよかったと思いつつも、洋一の言葉に反応してとっさに行動していたのはなぜなのだろうかと自問していた。
 あの人の言葉、ううん、あの人には何か、独特な何かがある……。
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