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風雅、舞い - 第四章 ふたりの勇者 (16)
「で、えけぇ……」
 ツインローターの大型ヘリの下に、ワイヤで吊された獣がいた。いや、それは「動物」という範疇のものではなかった。雅樹からは背中しか見えないが、体全体を真黒い毛が被い、所々に黒い甲羅のような物が生えている。
 遠くでヘリが旋回する。ワイヤが切られ、音もなくLW−97が降りる。畑を踏み抜き、土煙が上がり、そして地響きが聞こえる。車も揺れた。
「行って来る!!」
「えっ!?」
 驚いたのは洋一だった。リシュネは大きく跳ね上がり、さらに空を真横に蹴り飛ばし、LW−97へと向かっていく。
「僕はどうすればいい?」
 洋一は思案し、指示する。
「リシュネのフォロー頼む。俺はこのまま帰る。なんならリシュネを連れ帰して、あいつは放っておいてもいい」
 返事をせずに少年は車を飛び出す。雅樹はその移動を追っていく。とんでもない速さだった。
「とりあえず、俺達は走ってる車から降りるなんて真似できないな……」
 つい先ほど完勝した気分はすでに失せていた。舞はどう行動すべきなのか考えあぐねたまま、何もできないでいた。
「ふたりとも無事連れ帰るつもりだが、戦える準備だけは」
 フロントガラスにひびが入り、屋根を銃弾が跳ねる。ガードレールを擦り、岩肌に正面から突っ込んで車が止まる。エアバッグが開き洋一がそれに突っ込む。後ろでは雅樹が舞を抱きかかえ、車内を跳ねていた。
「くっ!!」
「きゃぁっ!!」
 車はおもちゃのようにバウンドし、外装がひしゃげた。洋一は一瞬もうろうとしたあと周りを見回したが、ガラスがすべて蜘蛛の巣状になっていた。おはるさんが心配そうに見上げる。
「後続はどうなってる……? ま、待っていればリシュネが来て……あっ」
 洋一が止める間もなく雅樹が車外へと出る。舞もそれについていく。
「戻れ!! 車の中の方が安全だ!!」
 と言いながら、洋一は邪悪な笑みを浮かべていた。あのふたりの力を見ることができる、先ほどとは違った形の――特にあの男の特殊な能力を見られるかもしれない――洋一は隠れるようにして車外へと出た。まだ後続は来ていなかった。戦場ではリシュネがこちらに向かってきているのが見えた。
 雅樹ははた目からはとても不用心に見えた。道路の真ん中でのんびりと構えているだけだった。そして、不意に大声を出す。
「そんな所でこそこそ狙ってるんじゃねぇよ!!」
 雅樹は木々の茂る山へと見上げ、睨み付けた。
「まさか、ばれるとはね……」
 ハンドガンを構え、迷彩服に身を包んだ男が出てくる。雅樹はあの時の男だと確信した。
「銃……」
 舞は心音を強く感じていた。先ほどのディルトとの戦いはうまくいった。けれども、それは相手の攻撃を封じられたからだ。今のこの状況では、それは不可能に近い。
 なのに……この目の前の男の自身は何? 不老不死という言葉が浮かぶ。それを確かめたくはない。けれども……。
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