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風雅、舞い - 第五章 変化 (3)
 煙草の灰が綺麗な洋風のテーブルを焦がす。灰を落とすことさえ忘れた男達は、ただただ呆然とモニターを見ているだけだった。
 モニターが消え照明が点ってからも、声を出そうとは誰もしなかった。初めての音声は、笑い声から始まった。
「……はは、これはいわゆるその、ジュラシックパークのような、CGとかそういう」
「ものではありません。これは実際にLWシリーズとAPシリーズの力を見てもらったまでです」
「だが、これは……」
「超能力、というものですかな」
「それはまずい、科学界に反旗を翻すようなものだ。これはまずいですよ」
「しかし、インパクトとしては最高のものだな」
 その言葉に、誰もが二の句を継げられなかった。その強烈さは、身をもって知らされていた。
「ところで、そのえーぴーというものは、いったい何なのだね。我々の資料にはないが?」
「いえ、これは本当はまだ試作段階で、お見せするつもりはなかったのですが……なんといいましょうか、失敗作でして、すでに処分しました」
「処分?」
「しかし、彼らは人間のように見えたが」
「人間のように似せたLWシリーズ、それがAPです。LW−97は、今日見ていただいたように巨大な生物ですが、それとは対照的に人に似せることもできる、そういうことです」
「体が小さい分、あのような力で補っていると、そういうことでしょうか……」
「ええ。しかし、これは今回の計画にはあまりいい影響を与えないでしょうから、参考までということで……」
 解説が終わると、男達は周りと話し始める。石和は、彼らがただとりあえず難しい語句を並べ、まるで真面目に議論しているかのように見せているだけだということを知っていた。そして、もう私は、あの席に座ってはいない。
「田中君、良くやってくれた」
「いえ、しかし……」
「APのことかね。あれはああいうことになっている。この会議はだね君、吹き流しのようなものだ。無数の風に翻弄されて幾度も方向を変える。だが、下にいる者はその吹き流しを見ることでしか風向きを知ることができないのだよ」
「我々は適当に風を起こして、最終的な向きが望むものならばそれでいいと」
「そういうことだ。ところであの件、どうするかね」
「受けさせていただきます」
 即答したことに驚いて、石和は行雄を見た。
「……本当にいいのかね」
「ええ。このプロジェクトは、人生を賭けられるだけの価値のあるものだと、感じましたから」
「そうか……」
 笑みを悟られないよう、石和は煙草に火を点けた。
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