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風雅、舞い - 第五章 変化 (6)
<ふたりともやめなさい!! やめなさいって言ってるでしょ!!>
 タマネギの形をした白いドームの中で、ディルトと少年は模擬戦を行っていた。だが、その光景は誰の目から見ても尋常なものではなかった。
 室内にふたりの声がこだまする。だが、それ以上に響きわたる骨折音。大小さまざまな骨が折れ砕ける。同時に周りの皮膚と筋肉が裂け、血が飛び散る。
 ふたりの戦闘は、格闘技の試合のような近接戦闘だった。だが、その状況はとてもテレビで放映できるようなものではない。ふたりはただただ打撃を繰り返し、たまに相手の打撃をブロックしたと思えばその打拳を瞬時に砕いた。ふたりは互いをスクラップのようにしながら、それでも戦う事をやめなかった。
「ったく、こんなデータ何の役に立つって言うの……」
「でも、これはすごいですよ」
 映し出されたウィンドウには、驚異的な回復力を示す情報がグラフとなって描かれていた。そのグラフを見てからふたりを見れば、先ほど折られた右腕で殴り返しているのが見えた。
「あきれてものも言えない……」
 智子はその支離滅裂な戦闘風景に嫌気がさしながらも、洋一が言った言葉が全く正しいことを改めて思い知らされていた。
 ホント、もう私の手には負えないな……。
「先生、左さんどこにいるか知ってます?」
「え? 今日は外に出てるはずだけど。何?」
「保安部から、何かまずいことが起きたみたいで……」
 スタッフのひとりが受話器を渡す。受話器の向こうでは、出たのが智子だということに躊躇していたが、結局そのまずいことを話すことにしていた。
「データが、壊されていたんです」
「データって、まさか」
「APの全データです。LANは物理遮断されてますから、誰かが進入して」
「進入って、いつ入ったっていうの」
「それが、ファイルは削除されたとかではなく、何かを使って壊されてるんです。サイズもスタンプも変更されてません。今一週間分のテープを取り寄せてますが」
「二週間分にしなさい。私は洋一さんを呼び出すわね」
 受話器を置きながら、智子は考えていた。ただファイルを壊す何てことはない、コピーされているはず。ということは天地工業、考えられるのはあの戦闘の時……。
 バッグから携帯を取り出そうした時、下の風景が目に入った。相変わらずの戦闘風景は、智子にため息をつかせた。
 後悔は、しないはずだったのにな……。
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