白い壁に包まれた小さい部屋の中にみっつほどの白い洋風テーブルセットが置かれている。そのテーブルセットのひとつに少年とディルトが向き合って食事を取っていた。脇に置かれた銀色のキャスターにはホットドッグとハンバーガーが山積みされていて、ディルトはそれを鷲掴みにしてほおばっている。先刻の戦闘の傷はまったく見られない。
その汚い食べ方から目を逸らしながら、少年は紅茶をすする。今ここでこの存在の前に座っていること自体驚きだと自分で思うほどだったが、意識を若干遮断していることを差し引いても、なぜか自分はここにいたいと思っていた。
「リシュネは?」
「知らん。あいつらの所だろ」
ふたりの会話は素っ気ない。単なる情報のやりとりが続くだけだった。
「ふ〜ん、人間に興味でも持ったのかな」
「リシュネとおまえは違う。生まれた時からAPだったおまえとは知識量も大系も違う」
頬張ったまましゃべりケチャップとマスタードが跳ね飛ぶ。少年はそれを宙で弾いた。壁にもうひとつ柄が生まれる。
「……リシュネは、APになれて幸せなのかな」
「不幸しかなかったリシュネだ、当然だ」
「僕とは違う、か。僕はAPだ、だから幸せでもあり、不幸とも感じる。このジレンマはなかなか解決しないな」
少年は普段見せない表情でディルトを見た。ディルトは口を拭き、少年を見返した。その風体は不気味だが、瞳は死んでいない。僕とは違って。
「……僕達は、どういう理由で選ばれたんだろう……」
「リシュネと俺は無作為に選ばれたはずだ。だが、おまえは、おまえ達一家は理由がある」
「え……!?」
椅子が揺れ、乗り出す少年をディルトは睨むように見る。
「でも、僕達は病気っていう共通項が」
「おまえ達の理由付けで俺達が選ばれた、そう考えた方が自然に思えるな」
「そんな……」
少年は再び座る。落ち込んだ意識はすぐに猛る。
「じゃぁ、その理由って」
「それは、教えられんなぁ?」
ディルトは気持ちの悪い笑みを浮かべて見せ、そして席を立った。トレイとテーブルは汚く散らかしていたが食べられるものはひとつとして残っていなかった。
「<選ばれし者>……僕がそうでなくても、僕は、それを知らなければならない」
少年は立ち上がり、部屋を出ようとしているディルトの背中を睨み付けた。テーブルに置いた手の回りに、ひびが入っていった。
「教えてもらえないのなら、力ずくでも……ね」
「俺を殺るより、洋一の方が楽だと思うが?」
立ち去るディルトを睨み付けながら、少年はふたりを天秤に掛けていた。
「……楽な方が軽いってわけでもない、か……」
その汚い食べ方から目を逸らしながら、少年は紅茶をすする。今ここでこの存在の前に座っていること自体驚きだと自分で思うほどだったが、意識を若干遮断していることを差し引いても、なぜか自分はここにいたいと思っていた。
「リシュネは?」
「知らん。あいつらの所だろ」
ふたりの会話は素っ気ない。単なる情報のやりとりが続くだけだった。
「ふ〜ん、人間に興味でも持ったのかな」
「リシュネとおまえは違う。生まれた時からAPだったおまえとは知識量も大系も違う」
頬張ったまましゃべりケチャップとマスタードが跳ね飛ぶ。少年はそれを宙で弾いた。壁にもうひとつ柄が生まれる。
「……リシュネは、APになれて幸せなのかな」
「不幸しかなかったリシュネだ、当然だ」
「僕とは違う、か。僕はAPだ、だから幸せでもあり、不幸とも感じる。このジレンマはなかなか解決しないな」
少年は普段見せない表情でディルトを見た。ディルトは口を拭き、少年を見返した。その風体は不気味だが、瞳は死んでいない。僕とは違って。
「……僕達は、どういう理由で選ばれたんだろう……」
「リシュネと俺は無作為に選ばれたはずだ。だが、おまえは、おまえ達一家は理由がある」
「え……!?」
椅子が揺れ、乗り出す少年をディルトは睨むように見る。
「でも、僕達は病気っていう共通項が」
「おまえ達の理由付けで俺達が選ばれた、そう考えた方が自然に思えるな」
「そんな……」
少年は再び座る。落ち込んだ意識はすぐに猛る。
「じゃぁ、その理由って」
「それは、教えられんなぁ?」
ディルトは気持ちの悪い笑みを浮かべて見せ、そして席を立った。トレイとテーブルは汚く散らかしていたが食べられるものはひとつとして残っていなかった。
「<選ばれし者>……僕がそうでなくても、僕は、それを知らなければならない」
少年は立ち上がり、部屋を出ようとしているディルトの背中を睨み付けた。テーブルに置いた手の回りに、ひびが入っていった。
「教えてもらえないのなら、力ずくでも……ね」
「俺を殺るより、洋一の方が楽だと思うが?」
立ち去るディルトを睨み付けながら、少年はふたりを天秤に掛けていた。
「……楽な方が軽いってわけでもない、か……」